在留外国人に対する語学教育の機会が不足している(写真:Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート)
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 出入国在留管理庁の発表によれば、6月末時点で、日本の在留外国人の数は395万6619人と、前年末比で18万7642人(5.0%)の増加だった。国政のメインテーマもいつの間にか外国人政策になりつつあるが、多文化共生の専門家は、日本の移民受け入れはこのまま進むと大きな困難に直面すると語る。『移民が増えて、いいことって何だろう? 対話と議論にむけた12のギモン』(明石書店)を上梓した信州大学グローバル化推進センター教授の佐藤友則氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書では、在留外国人に対する語学教育(日本語教育)の機会の乏しさについて解説されており、海外の取り組みとして、ドイツの例が本書の中で紹介されています。

佐藤友則氏(以下、佐藤):ドイツは第二次大戦で大勢の人が亡くなったこともあり、労働力不足を補うために、1960年代にトルコを中心に大量に移民を受け入れました。「何年か働いたら勝手に帰るだろう」という甘い考えを持っていましたが、結局、この時の移民の受け入れは失敗しました。

 移民たちは数年働いても帰らず、家族を呼び寄せてドイツで子育てを始めました。ドイツは移民や移民の子供へのドイツ語教育の準備をしていなかったので、子供たちのドイツ社会への適応はあまりうまくいきませんでした。

 また、大人の移民も、ドイツ国内で自分達だけのコミュニティを作り、ドイツ人と交わろうとせず、ドイツ人も移民たちと距離を取りました。こうして移民だけのコミュニティと受け入れ側の社会がそれぞれできることを「並行社会」と呼びます。

 今の日本の移民の受け入れ方は、当時のドイツと大差がありません。「いつか母国に帰るだろう」と多文化共生の基本法を作らず、受け入れ体制、教育体制、医療体制などを整えないまま、ただ「人手が足りないから」と多くの移民を入れている。だから、全国知事会などが基本法を求めるのです。

 ドイツは国民的な大議論を経て、2005年に多文化共生の基本法を作り、その後も法律を修正しながら、膨大な予算をかけて移民をドイツ社会に統合する努力をしてきました。

 日本は、移民の数が大幅に増えた安倍政権の段階で基本法を作るべきでしたが、その動きは全くなく、そのツケが回ってきています。外国人が激増したと日本人が急に驚くのも、日本人が多文化共生に関する教育や説明を受けてこなかったからです。

 また、日本に来た移民には日本語を学んでもらう必要がありますが、同時に、日本のルールや考え方など、文化面もあわせて学んでもらわなければなりません。韓国では2010年代からそうした取り組みを始めています。