移民の子供が母国語を学ぶ機会はほとんどない

──オーストラリアでは、移民の子供に英語教育だけではなく、その子の母国語教育の機会も与え、バイリンガルにして、その子が大きくなった時に母国とのブリッジになるような存在を育てるという話がありました。

佐藤:これはとても斬新で興味深い取り組みですが、まだ本当の意味でどこまでうまくいっているのか分かりません。オーストラリアの中で「カネの無駄づかいだ」という声もあるようです。ただ、移民の子が母国語を学べる機会などを積極的に紹介して、英語と母国語が両方できると、将来、さまざまな可能性があると提案しているようです。

 オーストラリアには中国人が多いですが、オーストラリアと中国の間には難しい外交関係もあります。そこで、ルックスは中国ですが、オーストラリアで育ち、母国語レベルの英語力を持ち、同時に中国語もできる両国のブリッジ人材を育てられれば、いいつなぎ役になってくれるかもしれない。

 オーストラリアにはレバノンなどの移民も多いですが、他の国に対してもこうした効果を期待できます。政治だけでなく、ビジネスにおいてもそのような人材は貴重な役割を果たすでしょう。

 2019年に、日本でも「日本語教育推進法」というものができました。その中には、実は同じビジョンが盛り込まれています。ただ、実際に移民の子にその子の国の言語を学ぶ機会を提供できているかというと、まだ何も始まっていないのが現実です。これは、早急に進めなければならない課題です。

佐藤 友則(さとう・とものり)
信州大学グローバル化推進センター教授
1965年生まれ。仙台市出身。新潟大学人文学部(社会学専攻)卒業後、2年間カメイ株式会社に勤務。退社後に東京で日本語教育の勉強を始め1991年から教え始める。その後、東北大学大学院文学研究科に進学し、博士課程の時に韓国・全北大学校の客員教授となる。3年後に帰国し、東北大学留学生センター非常勤講師を経て、1999年信州大学留学生センター講師となる。留学生など客をよく呼んでは特技のインド料理をふるまっている。趣味はカメラと食べ歩き。30カ国歩いたが50カ国が目標。著書は『10代からの批判的思考』(分担執筆、明石書店、2020年)、『〈多文化共生〉8つの質問』(学文社、2014年)。

長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。