先端半導体を握っている台湾・TSMC(写真:ロイター/アフロ)
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 衆院選を経て国民から圧倒的な支持を得た高市政権だが、外交、安全保障、経済をめぐり日本はどんな強みを持つことができるのか。米中を中心とした世界を取り巻く「地経学的なリスク」はどこにあるのか。『地経学とは何か 経済が武器化する時代の戦略思考』(新潮選書)を上梓した東京大学公共政策大学院教授の鈴木一人氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──本書では、地経学について書かれています。地経学とは何ですか?

鈴木一人氏(以下、鈴木):「地経学」は英語で「Geoeconomics」ですが、地政学と経済学を合わせた研究分野です。冷戦が終わった後に「地政学の時代から地経学の時代へ」といったニュアンスで一般的に使われるようになりました。

「経済を武器にする力」が国際関係をどう形成するかを明らかにするのが地経学です。たとえば、70年代にオイルショックがありましたが、石油を武器にして他国に対して影響を与えて国際秩序を変えていく。これはまさに地経学的な戦略です。最近であれば、中国がレアアースの輸出を制限することも同じです。

 地経学では、物資を武器化できるか、あるいはそうした攻撃をはねのける準備があるかという自立性が問題になります。相手に対する依存度が低ければ自立性を高めることができます。逆に、他の国がそれなしには生きていけない物資を生産できるようになれば不可欠性を高めることができる。地経学は、自立性と不可欠性の組み合わせで状況を見ていく学問です。

──重要な戦略物資の1つとして半導体を挙げています。日本の半導体産業の行く末は、ラピダスの成功に大きく左右されそうです。

鈴木:地経学の観点から見れば、ラピダス構想は正しい国策です。AIが次の産業を担う重要な技術になりますが、 AIの計算能力を左右するのは半導体です。高市内閣もAIと半導体をセットで成長戦略に位置付けてきました。

 この数年、日本が取ってきた半導体政策には2つの方向性があります。1つは、台湾・TSMCの熊本誘致で、ここでは28ナノを中心とする車載半導体を生産しています。需要の多いボリュームゾーンですが、これまで日本では生産できませんでした。

 TSMCは最先端の半導体を生産できますが、日本は最先端ではなく、わざわざ2世代、3世代前の半導体を生産する工場を誘致しました。日本が最も求めている半導体を日本国内で供給できるようにして、サプライチェーンの自立性を高めるためです。TSMC熊本工場は戦略的自立性のために作られたと言っても過言ではありません。

 一方のラピダスでは、ビヨンド2ナノ、つまり2ナノメートル以下の最先端半導体の生産を目指しています。こうした半導体は、現状ではTSMCしか生産できず、技術的な難しさや人材の不足などの課題もありますが、ラピダスでは2ナノの試作品まではすでに作ることができています。

 次の課題は、いかに歩留まりを高くできるかで、これはどれだけ不良品を少なくできるかということです。

 髪の毛の1000分の1のサイズですから、不純物や化学反応など微かな要因で歩留まりが悪くなります。成功させるためには不断の研究開発と人材育成を続けなければなりません。希望的観測も含めて私は上手くいくと思っています。戦略的不可欠性を高めるためにも、日本はどうしてもこの技術を持っておかなければならない。

 AIの需要がどんどん増えているのに、現状このレベルの半導体を生産できるのはTSMCだけです。ラピダスで生産できるようになれば、大きな成長性が望める分野です。