アメリカ第一主義を掲げ、広範な関税措置やさまざまな政策を打ち出し、世界に大きな波紋を広げている第二次トランプ政権。日本企業においても、アメリカの関税引き上げによる事業収益の減少やサプライチェーンの混乱など、大きな影響が懸念されている。

 また、ロシアのウクライナ侵攻、米中の覇権争い、中東における紛争など世界情勢の不安定化で、地政学リスクも高まりつつある。これらの状況下で企業はどう対応すべきか、国際政治と安全保障が専門の慶應義塾大学・神保謙教授が解説する。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第2回 サプライチェーン改革フォーラム」における「基調講演:トランプ政権2.0と向き合う世界 地政学リスクとサプライチェーンへの影響/神保謙氏」(2025年4月に配信)をもとに制作しています。

世界情勢が不安定化する中で高まる地政学的リスク

 まずは、トランプ政権2.0を迎え入れているこの世界の背景、国際秩序の動向を見てみましょう。2000年代に入って四半世紀のうちに、国際秩序のトレンドは、「地政学の終焉(しゅうえん)」「復活」そして「多極化」と3つの大きな変化を遂げています(下図)。

 「地政学の終焉」とは、2000年代初めに見られた現象で、世界中でグローバル化が進み、国境を越えたヒト・モノ・カネ・情報のつながりが顕著になったことをいいます。経済相互依存が高まる中で、経営者の腕の見せどころは、国境の薄くなった世界においてどのようにバリューチェーンを組み合わせ、企業価値を高めるかにありました。

 また、当時の国際政治における重要な前提として、当時も台頭していた中国や多くの新興国が、いずれは、日米欧7カ国(G7)などの西側先進国の枠組みに吸収されるという発想がありました。

 この前提が大きく変わったのが、2010年代および2020年代、今われわれが生きている世界です。ここで、地政学が復活したといえるでしょう。

 背景には、現在もウクライナへ侵攻を続けるロシアの再台頭や、覇権争いが深刻化する中東情勢、中国の軍事的・経済的な台頭などがあります。こうした動向によって、地政学がヨーロッパや中東、そしてアジアにも復活してきました。

 今やビジネスにおいては、この地政学的なリスクが高まる環境下での合理性を、さまざまに再定義しなければなりません。

 そして、2030年代以降に訪れる世界は、主要新興7カ国(E7)やBRICSプラスの国々が国際秩序におけるウエイトを急速に増していくと予想されます。

 現状、アメリカを始めとするG7諸国のそうした新興国への対応は、優れているとはいえず、新興国もG7的世界への吸収を望んでいません。新興国が国際システムに統合されるという前提は、崩れつつあります。

 日本も、新興国とどのような形で自らのポジションを確立していくか、真剣に考えるべき状況にあります。