写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 企業の価値創造ストーリーにおいて、知財戦略を具体的な経営活動といかに融合していくべきか。シティグループ証券などで長年セルサイドアナリストを務め、一橋大学CFO教育研究センターで「投資家との対話」をテーマに講義する松島憲之氏が、「統合リポート・アウォード2025」で高く評価された事例を手がかりに、その現在地を読み解く。知的財産を「未財務資本」や「経済の堀」と捉え、経営の中核に据えるTDKと富士フイルムホールディングスの開示姿勢から、投資家を引きつける知的資産経営の核心と、統合報告書が目指すべき姿が浮かび上がる。

TDKの知財経営

 知財経営の重要性が増す中、優れた統合報告書を発行する企業は、知的財産を経営戦略の不可欠な要素として位置付けている。TDKと富士フイルムホールディングスはその代表例だ。両社の知財経営の実践を見ていこう。

 TDKは「TDK United Report 2025」の36ページなどで知財戦略を具体的に説明している。

(出所)「TDK United Report 2025」
tdk.com/system/files/integrated_report_pdf_2025_ja.pdf
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 TDKの統合報告書の知財のパートで評価できる点は、知財戦略だけを単独で説明するのではなく、知財戦略と事業戦略を整合するために「知財ポートフォリオ」を構築し具体的に開示していることだ。

 TDKでは、知財戦略と事業戦略のアライメント(整合)を重視した知財活動を展開しており、このアプローチは、内閣府の「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」が提唱する「企図する因果パスの明確化」の実践といえる。

 知財活動への投資を、事業の競争力強化、それによる事業の成長というリターンに直接的に結び付けることを目指しているTDKの知財活動は、知的財産権の取得やノウハウの保護といった活動(守りの知財戦略)にとどまらない。知財を背景とした強い契約の実現、知財視点からの市況分析、投資家を含むステークホルダーとのエンゲージメントといった活動(攻めの知財戦略)にも及ぶ。