企業が主力事業から新たな挑戦へと舵を切る瞬間には、必ず大きな決断と改革が伴う。新機軸に挑む企業の背景や経緯を掘り下げ、キーパーソンとその挑戦の舞台裏に迫り、未来を切り開くリアルな姿を伝える本連載。
第1回は、2025年で創業120年を迎えるコクヨを取り上げる。同社は、文具をはじめオフィス家具、オフィス通販、インテリア販売などを手がけ、さらにそのマーケットを中国・インドを中心にアジア全体へと広げている。しかし、実はここ20年間ほどの間、売上は約3000億円で足踏み状態が続いていた。2015年に5代目の黒田英邦(ひでくに)氏が社長に就任して以来9年間、さまざまな改革を進め、2023年からは再び成長軌道を描き始めた。老舗企業コクヨに今どのような変化が起きているのか。コクヨの改革を人事の面から推進する執行役員ヒューマン&カルチャー本部長、コクヨアカデミア学長の越川康成氏の挑戦に迫る。
3000億円から5000億円になるための人事
コクヨの改革にドライブをかけているのが人事面での刷新だ。執行役員でヒューマン&カルチャー本部長とコクヨアカデミア学長を兼ねる越川氏は、2022年12月に入社した。当時新卒入社が多数を占めていたコクヨでは珍しい、キャリア採用された中途入社組の役員だ。入社してまだ2年足らずだが、越川氏がコクヨで取り組んだことの成果は、すでに社内の随所に表れている。
「2021年2月に、売上5000憶円に向けた長期ビジョンを発表した後、ヒューマン&カルチャー本部の前任の責任者が事業側に異動することになり、そのタイミングで、今後の成長に向けて外から経験のある人を採用したいということでオファーをいただきました」(越川氏)
その「経験」とは、単なる人事の経験ということではない。20年間売上が3000億円で足踏みしていたコクヨにとって、3000億円から5000億円への成長は社内の誰も経験したことがない。だから、その成長フェーズに必要な組織作りの方法を知る者はいなかった。越川氏は、前々職で、まさに4000億円から2兆円に急成長した企業において人事組織を作り替えていくということを経験していた。
売上3000億円を5000億円にするためには、当然別の会社になっていないといけない。だから、組織や人事制度も5000億円に向けて変わっていかないといけないのだ。越川氏は、前々職の会社でも、既存の組織を管理する人事というよりは、成長のために新しい機能を作っていく人事を実践し、その過程において経営者の側で経験を積んでいた。
老舗企業が成長できることを証明したい
「入社前に(黒田)英邦(ひでくに)社長と面談した時に、コクヨに今どういった課題があるのかを聞いてみたところ、もったいないと感じることがたくさんありました。