自動車業界では近年、クルマの開発戦略が従来のハードウエア中心からソフトウエア中心に移行しつつある。本格到来を迎えるソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV:ソフトを中心に作られたクルマ)時代に向けて、デンソーはどのような取り組みを進めているのか。同社の上席執行幹部 CSwO(チーフ・ソフトウエア・オフィサー)である林田篤氏に、自動車ソフトウエアの現状と課題、未来像を聞いた。(前編/全2回)
デンソー=トヨタの部品メーカーという印象が強いが……
──林田さんは現在チーフ・ソフトウエア・オフィサーですが、長年ソフトウエア開発に携わってきたのでしょうか?
林田篤氏(以下敬称略) 研究開発部での物性研究を経て、携帯電話の開発やナビゲーションのソフトウエアなど、大規模なソフトウエア開発を手掛けてきました。2015年には、メーターやナビゲーションといったコックピットシステムのソフトウエア開発を担当し、2021年には、デンソー内のソフトウエア開発に横串を指す組織が発足し、その統括部長を務めました。その後、現職のCSwOに就任しています。
──コックピットシステムの開発は自動車メーカーとどのような役割分担になっているのですか?
林田 当時はまだ自動車メーカーによるソフトウエア内製化という流れがなく、自動車メーカーは要求仕様を用意し、私たちがそれに従って開発を行っていました。メーターのグラフィックデザインも自動車メーカーが作ったものを基に、実際のメーター機器の中でどう表現するかを提案するという流れになります。
──その場合、デンソーからの納品物はソフトウエアだけでなくハードウエアを含めて、という形になるのでしょうか?
林田 デンソーとしてはハードウエアも含めて開発していますので、いわゆるECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)という箱の形で、ソフトウエアを組み込んだ状態で納品します。ただし、これは当時の話で、現在は変わりつつあります。
──顧客企業はやはりトヨタがメインなのですか?
林田 私自身は長くトヨタ以外の自動車メーカーを担当してきましたが、会社全体としては現在、トヨタとトヨタ以外で約半々の比率です。コックピットシステムを担当するようになってからは、トヨタも含めて見るようになっています。