デンソー CDO(Chief Digital Officer) 経営役員 ITデジタル本部長 研究開発センター長 社会イノベーション事業推進統括部担当の武内裕嗣氏(撮影:堀江宏旭)

 膨大な数の従業員にどうDXを広めるか――。このテーマと対峙してきたのがデンソーグループだ。同社は製造部門で働く従業員を含めた、17万人に及ぶグループ全従業員にデジタル端末を支給することを決め、現場のIT活用を進めてきた。2023年には部門ごとに「DXプロデューサー」を配置し、さらなる取り組みの加速を狙う。そんな同社のDXにおけるスタンスは、トップダウンで広めるのみではなく、DXの必要性に気づき自ずから動き出す従業員を増やすこと。詳しい話をデンソー CDO(Chief Digital Officer) 経営役員 ITデジタル本部長 研究開発センター長 社会イノベーション事業推進統括部担当の武内裕嗣氏に聞いた。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年2月9日)※内容は掲載当時のもの

各部門の活動に「17万人へのデジタル端末支給」成功の兆しが見えた

——17万人にデジタル端末を支給するのは、大きな投資だったと思います。どのような経緯でこの決断に至ったのですか。

武内 裕嗣/株式会社デンソー CDO(Chief Digital Officer) 経営役員 ITデジタル本部長 研究開発センター長 社会イノベーション事業推進統括部担当

1987年に日本電装(現:デンソー)に入社。世界初のエジェクタサイクルを開発し第1回ものづくり日本大賞 内閣総理大臣賞受賞。 2014年に常務役員として、エアコンディショニング事業部を担当。 2017年よりコックピットシステム事業部を担当。2019年に経営役員に就任し、モビリティエレクロニクス事業グループを担当。その後研究開発センター長に就任し、2023年より現職。

武内裕嗣氏(以下敬称略) それまでいくつかの部門、たとえば製造部門にて自分たちで費用を捻出し、従業員にデジタル端末を支給しているケースがありました。それら個別の取り組みを見ていくと、明確な成果が生まれる兆しがあったのです。であればこの流れを加速させようと、グループ全体の施策として製造部門の全従業員へデジタル端末を支給することにしました。まずはデンソー本体で効果を見極めたうえで、グループ会社への拡大を検討していきます。

 前提として、デンソーでは基幹システムや業務プロセスのDXを4つのステップで進めてきました。最初のステップとして、現存するモノや情報の流れ、仕事のプロセスをシンプルにする「簡素化」を行い、次にこれらの「標準化」を進めます。その上で、標準化した情報を同じナレッジベースに集積する「集中化」を行い、最後にプロセスの「自動化」を測ります。簡素化、標準化、集中化、自動化というステップです。

 ポイントは最初の簡素化です。現状の業務やプロセスをいきなり自動化しようとしても、アナログで行ってきたものづくりの流れは非常に複雑です。取り除くべきムダも含めて自動化してしまうこともあるでしょう。そこでまず簡素化するのです。これはデンソーが大切にしてきた「リーンオートメーション(無駄を徹底排除した自動生産システム)」に基づく考え方です。

 このようにシステムやプロセスのDXを行う中で、それを多くの人材が使いこなせる状況を作ることが重要です。17万人へのデジタル端末支給はこの一環でもあります。昨今、世間でも「市民開発」が盛んに叫ばれていますが、我々も同様に、現場で使っているシステムやツールに課題が見つかった場合、当事者がその場でどんどん改善できるようにしています。