撮影:榊水麗

 100年に1度の大変革期を迎えているといわれる自動車産業。電動化やコネクテッド化、自動運転などクルマそのものの進化に加え、クルマをはじめとするさまざまなモビリティを取り巻く社会システム全体が大きく変わりつつある。そんな中、自動車部品大手のデンソーは未来のモビリティ社会を見据えた研究開発に取り組んでいる。その最前線を担うのが先端技術研究所だ。同研究所の所長を務める伊藤みほ氏に、研究所の取り組みと、その社会的意義について話を聞いた。

パラダイム変化の先端に立つ社内研究所

──デンソー先端技術研究所は社内唯一の研究所とのことですが、どのような役割を担っているのでしょうか?

伊藤みほ氏(以下敬称略)デンソーの研究開発体制において、各事業部では主に5年以内の製品化を目指す開発を担当しています。一方、私たちの先端技術研究所は社内の研究開発部門の中で最も上流に位置し、5年先、10年先を見据えた基礎研究と応用研究を行う組織になります。

 研究所は1991年に「基礎研究所」として設立されました。当時の使命は「革新技術の創出による先進的なクルマ社会への貢献」でした。「夢を育てる飽くなき挑戦」をモットーに、半導体やエレクトロニクス、AI(人工知能)、HMI(Human Machine Interface)、材料、バイオ、先端技能など、クルマの根幹を担う分野で研究を重ねてきました。そして2017年、パラダイム変化の先端に立つ部隊として、所名を「先端技術研究所」に改めました。

──伊藤さんはかつて自動車用排ガスセンサの研究をしていたとのことですが、研究成果や現在、注力している分野で公表できる具体例はありますか?

伊藤 私自身は理学部化学科出身で、材料分野が専門なのですが、先述の通り研究所にはさまざまな分野のスペシャリストが集まり、各分野の研究に励んでいます。

 例えば、研究所発のイノベーションの一例として、EV(電気自動車)のPCU(パワーコントロールユニット)に用いるSiC(炭化ケイ素)パワー半導体の開発が挙げられます。これは、研究所で材料からデバイス、システムまで一気通貫で開発し、事業化の礎を築きました。

 また、自動車分野で培った技術を生かして、新しい領域にも挑戦しています。例えば、画像認識技術とロボティクスを組み合わせたトマトの自動収穫ロボットの開発なども手掛けています。こうした取り組みを通じて、モビリティ社会全体の課題解決に貢献していきたいと考えています。

──SiCパワー半導体はなぜイノベーティブなのでしょうか?