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 国内製造業のみならず、海外でも多くの企業が取り組んでいる「トヨタ生産方式(TPS)」。その実践に当たって「まずは1本の線を引くことが重要」と語るのが、さまざまな企業の現場へTPSの導入・指導を行ってきたOJTソリューションズのトレーナー、岡田憲三氏だ。2024年12月に同社より出版された著書『仕事の成果を最大化する トヨタのすごい線』の中身をひもときつつ、トヨタの強さを支える「線を引く」アプローチについて話を聞いた。

あらゆる場面で見られる「1本の線」の役割

――著書『仕事の成果を最大化する トヨタのすごい線』では、仕事の成果を最大化するために「線を引く」ことを提唱しています。これはトヨタの現場に見られる特徴とのことですが、具体的にどのような場面でどんな線が引かれているのでしょうか。

岡田憲三氏(以下敬称略) トヨタの現場では、仕事を安全に、求める品質に沿って効率よく行うために必要なことすべてに「基準・標準となる線」が引かれています。

 線とは、現場にある物の置き場や動線を決める際に用いる「目に見える線」のみならず、仕事の基準・標準となるルールや目標といった「目に見えない線」も含みます。1本の線があることで「正常か、異常か」が決まるため、問題が生じたことをただちに職場のメンバーが認識でき、手遅れにならずに対処できるのです。

 さらに、一度引かれた線は引かれたままになるわけではありません。変化に合わせて引き直されることがトヨタの現場の大きな特徴です。

 私はかつて、トヨタで試作車を作ってテストを行う部署に在籍していました。当初、試作車を1日あたり7台作っていましたが、世界シェア拡大のために1日あたり10台作る必要が出てきました。そうした時にも、さまざまな基準となる線が引き直されます。

 例えば「試作車が10台必要ならば、エンジンは12台分用意する必要がある。そのためにはこれだけの工程や作業が必要で、それをいつまでに行わなければならない」といった具合です。この線引きは上長が行うのではなく、現場にいるそれぞれの立場の人が目標や納期を考え、客観的に判断できる基準線を引くことが特徴です。