ビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、名著の「ツボ」を毎回イラストを交え紹介する。

 今回は、セールスおいて顧客の本音を引き出す提案ノウハウを、科学的見地から説いた『営業の科学』(高橋浩一著、かんき出版)を取り上げる。営業活動のみならず、さまざまなシーンで応用できるという、「仮面」をかぶった相手の本音を知るための秘訣とは?

優秀な若手からの唐突なお誘いに隠れた本音

『営業の科学』(高橋浩一著、かんき出版)

 だいぶ昔のことになるが、以前組織のリーダーをしていた時に、優秀な若手チームメンバーの一人(仮名:佐々木さん)とこんなやりとりがあったことを思い出す。

 それは、佐々木さんから珍しく昼食に誘われた時のことだ。いつも自分から声をかけることばかりで、向こうから誘ってくることはほとんどなかった。何か話したいことでもあるのだろうか…という疑問が頭をよぎった。

 しかし、その日は午後イチで大きなプレゼンがあり、準備に追われていた。そこで「今日はバタバタしていて無理そうだ。また別の日にしよう」と言って断ってしまった。

 夕方になり、やや余裕ができたので職場で改めて声をかけてみた。「そういえば、ランチに誘ってくれたけど、何かあった?」と尋ねると、佐々木さんは微笑みながら「あ、いやいや、何でもないので大丈夫ですよ。たまには一緒に行こうかなと思っただけです〜」と答えた。

 私は「そうか、それならまた今度にしよう」とだけ返し、そのまま忙しさにかまけて深く追及しなかった。

 それから3カ月ほど経ったころのことだ。佐々木さんが「ご相談」というスケジュールを入れてきた。