写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 九州を拠点にディスカウントストアを展開するトライアルホールディングス(以下、トライアル)が大手スーパーの西友を買収すると発表した。トライアルは念願だった首都圏進出を果たすことになり、買収によるシナジー創出に注目が集まるが、小売業界の人気アナリスト、Gマネジメント&リサーチ代表の清水倫典氏は「今回の買収の“真の勝者”は、西友株85%を保有していた米ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(以下、KKR)だ」と分析する。なぜか。

「3800億円」は高かったのか?

──トライアルが西友を買収しました。買収額は約3800億円ですが、この金額を妥当だと考えますか。

清水倫典氏(以下、敬称略) 買収額が適正だったのかどうかは、歴史のみが知ることですが、一番大切なのは「どれだけその会社を買いたいか」という熱意だと思います。

 例えば、セブン&アイ・ホールディングスが2021年に米ガソリンスタンド型併設コンビニの「スピードウェイ(Speedway)」を買収した際、約2兆3000億円という買収額に対してアナリストの多くは「高すぎる」という評価を下していました。しかし、コロナ禍が追い風となったこともあり、ディール直後から同社が想定以上の業績寄与を記録したことで、買収を問題視する識者はほとんどいなくなりました。

 安く買うことに越したことはありませんが、結果さえ出せれば、買収額は後から説得力を持つのがM&A(合併・買収)の世界です。

 その上で今回のトライアルによる西友買収をEBITDA(営業利益+減価償却費=国際的な企業価値を評価・比較する指標)の観点で見ると、西友の減価償却費等の詳細は公表されていませんが、250億~350億円の範囲だと推察されます。

 基本的にM&Aにおいては「EBITDA×7~8倍」の額で買収できれば「グッドディール(良い取引)」と評価されます。ですが、現在はインフレですし、買収競争をしていたイオンやPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)といったライバル企業に、西友の持つ関東圏を中心とする5000億規模の売上高を取られなかったことを考えれば、3800億円という数字は決して高いとは言えないでしょう。