
「デジタル化するか、さもなくば死か」。これは現代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラー氏の言葉です。この言葉は、デジタル化が企業にとって生存のために不可欠であることを指摘しています。もはやデジタル化は選択肢ではなく、生き残るために避けられない絶対的な戦略的条件となっているのです。
マーケティングは「顧客のニーズを満たし、競争優位を築くための市場戦略」であり、「製品やサービスを通して顧客に価値を提供する役割」を担ってきました。しかし、デジタル化の波が押し寄せる中で、このマーケティングの在り方にも変革が求められています。
この連載では、そのマーケティングの変革を「マーケティングDX」と呼び、日本マーケティング学会 オムニチャネル研究会のメンバーがその特徴を分かりやすく解説していきます。
初回と次回ではマーケティングDXをもたらした要因、そしてマーケティングDXによって何がどう変わるのか、という視点から、マーケティングDXの本質に迫ります。第3回以降からは、デジタルコミュニティー、サブスクリプションモデル、AIを活用したマーケティングなど、マーケティングDXによって生まれる新しい動きを取り上げます。
初回は、「なぜマーケティングにDXが必要となったのか」について、その背景を解説します。
マーケティングDXが必須となった4つの背景
AI、IoT、クラウドコンピューティングといったデジタルテクノロジー、そうしたデジタルテクノロジーをベースに生まれたデータアナリティクスやソーシャルメディアプラットフォーム、マーケティングオートメーションなどのデジタルツール……。近年、急速に発展しているデジタル化の波は、マーケティングにも押し寄せています。
これらのテクノロジーの発展により、企業が市場で生き残り、成長するための新たなマーケティングアプローチが次々と生まれています。「顧客ごとにパーソナライズされた体験の提供」や「リアルタイムでの消費者行動の把握」「ビッグデータを処理・分析することによる迅速で精度の高い意思決定」などがその例です。
これらの新たなアプローチは、これまでの企業活動の在り方を一変させつつあります。製品開発から生産、物流、販売、カスタマーサポート、そしてこうした活動を支えるマネジメントに至るまで、企業のあらゆる部門がデジタル化を推進し、それによって多くの業務が自動化され、効率性が格段に高まっています。
特にマーケティング分野では、デジタル化が単なるマーケティング業務の効率化を超えて、マーケティング戦略そのものや顧客体験を根本から捉え直し、再構築する必要に迫られています。
マーケティングの変革が必要になった背景には次の4つの出来事があります。①「革新的なデジタルテクノロジーがビジネスのやり方を一新させたこと」、②「そうしたデジタルテクノロジーが消費者行動、企業と消費者との関係が変えたこと」、③「これらの背景が相まって、競争環境がこれまでになく複雑化・流動化したこと」、そして④「コロナ禍がこうした背景全ての変化のスピードを一挙に速めたこと」。今回は、これら4つの背景を解説します。