ユニクロをはじめ多くのアパレル企業が在庫データの一元化を進めている写真提供:©Budrul Chukrut/SOPA Images via ZUMA Press Wire/©Pavlo Gonchar/SOPA Images via ZUMA Wire/共同通信イメージズ
世代や素材、販売チャネルの変化に合わせて、常に新しい潮流が生まれるアパレルの世界。国内外の業界事情に精通するファッションジャーナリストの久保雅裕氏による『アパレルビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)から、一部を抜粋・再編集。流通、デジタル、サステナビリティまで、ビジネスパーソンが知っておきたい「教養としてのアパレル」を紹介する。
アパレル業界で「在庫の一元化」がEC(電子商取引)成功のカギとして注目されている。コロナ禍で購買がオンラインに急速に移行し、店舗とECの在庫分断が課題となったためだ。機会損失の防止や物流効率化を通じ、OMO(オンラインとオフラインの融合)をどう進化させていくのか。
在庫の一元化という魔法
『アパレルビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)
アパレル業界において「在庫の一元化」というキーワードがEC成功のカギとして注目されてきました。
従来、日本のアパレル業界はリアル店舗を中心にした52週MD(マーチャンダイジング)の戦略を得意としてきました。この「適時・適品・適量」を考え抜いた在庫管理は、シーズンごとに細やかな需要変動に対応する力を持ち、欧米の「売り減らし」を前提としたアプローチとは一線を画していました。
詳述しますと日本のアパレル業界は、店頭の効率的な在庫管理を追求する文化を長く築いてきて、例えば週単位での販売動向を分析し、店舗ごとに適切な商品を適切な量だけ投入する手法で、売り逃しや過剰在庫を最小化しようと努力してきました。一方で欧米アパレルの多くは、店頭立ち上がり時に一気に投入し、売り減らしを基本としながら、シーズン終了時のセールで余剰在庫を売り切るモデルでした。
分かりやすい例を示すと、店頭に品物が並んでいない状態、つまり機会損失と言われる状態は許されないのが日本、棚が空いていてもあまり気にしないフランスの店頭という感じです。
この違いは、各地域の消費行動や市場特性に基づくものですが、ECが普及し、消費者の購買行動がリアル店舗とオンラインを横断するようになると、やはり各国どこでも在庫の分断は深刻な課題となりました。しかし、コロナ禍を境に消費者の購買行動が急速にオンラインへシフトしたことで、店舗とECの在庫を分断して運営していた従来の方法では対応が難しくなり、在庫一元化の必要性が高まりました。






