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 競争の軸足を「機能」から「価値」へと移し、高級時計市場の支配的地位を奪還したスイスの時計産業。その筆頭であるロレックスは、いかに「製造業の論理」から抜け出したのか。『ロレックスの経営史』(ピエール=イヴ・ドンゼ著/大阪大学出版会)から一部を抜粋。王者のブランドマネジメント戦略をひもとく。

 1990年代以降、ブランドのグローバル化が進んだラグジュアリー産業。改革開放を経て市場が開かれた中国で、カルティエやオメガといった競合を退け、ロレックスが最大シェアを獲得できた理由とは?

世界のラグジュアリー市場でより強い存在感を示す

ロレックスの経営史』(大阪大学出版会)

 1980年代末には、ロレックスはすでにアメリカから日本まで、ラテンアメリカ、西ヨーロッパ、中東を含む世界の主要なラグジュアリー商品市場で強い存在感を示していた。冷戦が終結し、中国が徐々に開放されたことで、高級品市場に大きな激変が起き、力強い成長の段階に入った。

 コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニー(Bain&Co.)によると、腕時計を含む高級消費財の世界需要は1994年の730億ユーロから、コロナ危機前夜の2019年には2810億ユーロのピークに達した*167

 1990年代以降のラグジュアリー産業のもう1つの大きな傾向は、ブランドのグローバル化である。これは、世界中でブランドのアイデンティティとポジショニングが標準化されることを意味する。このプロセスは、ラグジュアリー企業の本社が直接管理している*168。こうして、世界のラグジュアリー商品市場は、世界中で高度に均質化されている。ムーブメントを輸出し、現地市場に製品を適合させることで事業拡大を図ってきた多くのスイス時計メーカーにとって、1990年代は、大規模な再編成が行われた時期であった*169

*167 Bain&Co, Luxury Goods Market Study、2015年、Bain&Co, The Future of Luxury: Bouncing Back from COVID‒19, 2021.
*168 ドンゼ『ラグジュアリー産業』。
*169 ロンジンの例については、Donzé, “The Transformation of Global Luxury Brands”.