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 経営環境の不確実性が高まる中、日本企業の変革を支える人事の役割が問われている。経営に参画する人事の姿をどう描くべきか。そして、経営戦略の実行を人と組織から支える「戦略人事」とは何か──。2025年8月に著書『経営に参画する世界基準の人事 「戦略人事」が組織を根本から強くする』を出版した元積水ハウス執行役員人財開発部長で現在は人事コンサルティングとエグゼクティブコーチングを提供するHR&B代表取締役の藤間美樹氏に、戦略人事の要諦について丸井グループの実例を交えて聞いた。

ウルリッチの四象限に見る「戦略人事の役割」

──著書『経営に参画する世界基準の人事』では、経営戦略と人事をリンクさせる考え方である「戦略人事」をテーマとしています。なぜ、このテーマを選んだのでしょうか。

藤間美樹氏(以下敬称略) 私は長らく海外で仕事を経験し、その中で優秀なグローバルリーダーと働いてきました。そのリーダーたちに備わっていた優れた能力が、人材のエンゲージメントやモチベーションが高い組織をつくり、着実に戦略を実行することです。

 こうしたリーダーが多数存在する海外の市場に比べると、日本では高度経済成長期に見られたような強い企業が減ってきていると感じます。日本人として、その現状に悔しさを覚えてきました。「どうすれば日本企業が再び世界と戦えるようになるのか」と考えた末に注目したのが、「人」の重要性です。

 海外企業のように、人と組織の活性化を図り、モチベーションを高められる経営者が増えれば、日本企業の競争力は高まります。企業が発展すれば雇用が生まれ、利益も拡大します。その結果として給与水準が上がり、納税も増えていきます。経済全体が豊かになれば、日本社会全体の幸福にもつながるはずです。

 このような好循環を実現するための鍵こそが、戦略人事だと考えています。そうした背景から、本書では戦略人事をテーマに据えることにしました。

──人と組織を活性化させるために必要なのが「戦略人事」ということですね。戦略人事とはどのようなものなのでしょうか。

藤間 戦略人事の定義は「戦略を実行できる組織をつくること」です。その考え方を整理したものとして、米ミシガン大学の教授であるデイビッド・ウルリッチ氏が提唱した「ウルリッチの4象限」があります。【図1】

【図1】出所:HUMAN RESOURCES CHAMPIONS, Dave Ulrich, 1997【図1】出所:HUMAN RESOURCES CHAMPIONS, Dave Ulrich, 1997

 この図では、縦軸に「将来・戦略重視」と「日常業務・運営重視」、横軸に「プロセス重視」と「従業員重視」を配置し、4つの領域に分けています。それぞれの領域は、人事が担うべき役割を整理したものです。

 この4象限の中で、「将来・戦略重視」に位置付けられるのが、「戦略人事のマネジメント」と「組織風土改革と変革のマネジメント」の2つの領域です。これらが戦略人事に該当します。