
従業員数は約34万人、売上高は13兆円を超え、日本人であれば誰もが知る通信業界大手NTT。従来は「保守的」「官僚的」なイメージが強かったが、ここ数年は人事制度改革を行い次世代通信基盤 「IOWN(アイオン)」の世界展開を狙うなど攻めの姿勢に転じ、大きな転換期を迎えている。2024年12月に著書『NTTの叛乱 「宿命を背負う巨人」は生まれ変わるか』(日経BP)を出版した日経ビジネスLIVE編集長の堀越功氏に、人事制度の刷新から見える同社の変化や、IOWNの勝ち筋について聞いた。
NTTの人事制度にメスを入れた「もう一人の破壊者」
――著書『NTTの叛乱 「宿命を背負う巨人」は生まれ変わるか』では、2023年4月の島田明社長の就任後に導入された人事制度について「民営化以来の歴史的転換」と述べています。どのような点にインパクトがあったのでしょうか。
堀越功氏(以下敬称略) 島田体制下で始まった一般社員向けの新人事制度ですね。この制度では、入社年次に関係なく昇格できる脱・年次主義と、社員の専門性を高める評価軸を新たに導入しています。そして、入社年次や在職年数の要件を撤廃し、実力主義で人材を評価する点が特徴です。
こうした制度変更が「民営化以来の歴史的転換」と言われる背景には、同社の人事制度がかつて「官僚よりも官僚的」とやゆされていたことが関係しています。鉄壁の年次主義と、2~3年ごとに幅広い職務を経験させるメンバーシップ型組織の典型で、「理系か文系か」といった入社時の採用区分が退職に至るまで考慮されていました。
年次や入社区分を重視する点は、NTTグループの社長人事にも共通していました。例えば、NTT東日本と西日本は、NTTグループの「長男」「次男」と言われており、両社長は年次を合わせたり、一方が技術系であればもう一方は事務系にしたりと、さまざまな不文律が存在していたのです。
そして、こうしたNTTグループの鉄則を完全に撤廃したのが島田社長です。島田氏はNTT持ち株会社で総務部門長を務め、NTT社内の出世コースである総務・人事・労務部門を指す「総人労(そうじんろう)」畑を歩んできた人物でした。その島田氏が「破壊者」と呼ばれた前社長の澤田氏を超えるほど過激にNTTを変え始めることは、多くの人にとって予想外だったのではないでしょうか。