写真:Japan Innovation Review編集部

 複数の販売チャネルを統合し、シームレスなショッピング体験を提供する「オムニチャネル」。各チャネルで収集されたデータに基づき、顧客に最適化した購買体験を提供するマーケティング戦略として注目されている。本連載では、オムニチャネルを実践する国内企業8社の事例を解説した『ケースブック オムニチャネルと顧客戦略の現在』(近藤公彦、中見真也編著/千倉書房)から、内容の一部を抜粋・再編集。都市型ショッピングセンター(SC)のパイオニアであるパルコの施策を取り上げる。

 第1回は、パルコがオムニチャネル構築に取り組み始めた背景について、同社の歴史とともに振り返る。

<連載ラインアップ>
■第1回 ECサイト「PARCO-CITY」の開設で幕開け、パルコなぜオムニチャネルを目指したのか?(本稿)
第2回 Webサービス「カエルパルコ」は、なぜ実店舗とECのカニバリゼーションを防げたのか?
第3回 5つの機能「CCWCS」を搭載、公式アプリ「POCKET PARCO」導入の目的と成果とは?
第4回 リアルとデジタルが融合、新生「渋谷PARCO」が目指したセレンディピティセンターとは?
第5回 顧客視点でデータをどう活用? パルコが構築したデータ&インフラマネジメント「DAPCサイクル」とは

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はじめに

 オムニチャネルのメインプレイヤーは、言うまでもなく小売企業である。百貨店、専門店、コンビニエンスストア、ネット小売業等、ほぼすべての業態が、程度の差はあれ、オムニチャネルを実践しているといえるだろう。

 オムニチャネル研究は、こうした特定の業態に属する小売企業を暗黙の前提として展開されてきた。しかし、個々のプレイヤーが階層をなしつつ、全体として統合的なオムニチャネルを遂行する業態がある。それがショッピングセンターである。

 株式会社パルコを取り上げるのは、第1に、同社が日本における都市型ショッピングセンターの代表的事例であり、第2に、デジタル技術を駆使したオムニチャネル戦略を実践してきた先端的事例であるからである。

 第1の点に関して、ショッピングセンターはオムニチャネルプラットフォーマー(omnichannel platformer)として対テナントと対顧客について二面市場(twosided markets)を有し、テナントと顧客の双方に価値を提供している(Frishammar et al. 2018)。

 ここでオムニチャネルプラットフォームとは、商品・サービスのサプライヤー(テナント)とその買い手(顧客)との間のタッチポイントを店舗、EC、あるいはソーシャルメディアを通じて提供し、シームレスな買い物体験を促進する小売環境を意味する(cf. Hsia et al. 2020;Shi et al. 2020)。オムニチャネルプラットフォーマーは、こうした環境をテナントと顧客の双方に提供するアクターである。

 上の図に示すように、一般的に言えば、このオムニチャネルプラットフォームとしてのショッピングセンターには、以下のような取引/コミュニケーションチャネルが存在する。

 ショッピングセンターはまず、テナントとの間で出店料や各種サービス料の形で取引チャネル、そして顧客、商品、イベント等に関わるさまざまなマーケティング情報を交換するコミュニケーションチャネルを形成している。

 一方、ショッピングセンターと顧客との間では、ハウスカードの年会費等で取引チャネルが発生し、またコミュニケーションチャネルを通じて商品、店舗、イベント等の情報が顧客に提供され、顧客からは属性や商品・サービスの購買・利用情報がショッピングセンターに伝達される。そしてテナントと顧客の間では、商品やサービスの購買・利用により取引チャネルが成立し、商品、店舗、イベント等の情報に関わるコミュニケーションチャネルが形成される。