
競争の激しい飲食業界の中でも唯一無二の存在として強いブランド力を保つ「スタバ」。安易な低価格路線に与せず、質の高い顧客体験価値を提供する独自のマーケティング戦略とは? 本連載では『スターバックスはなぜ値下げもCMもしないのにずっと強いブランドでいられるのか? (新装版)』(ジョン・ムーア著、花塚恵訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)から、内容の一部を抜粋・再編集。スターバックス社内において暗黙の知見として共有されてきたビジネスルールの一端を紹介する。
今回は、かつて一度だけ行って失敗を経験した「お客様感謝デー」を例に、同社の価格戦略と顧客体験価値との関係性について解説する。
低価格戦略は、結局高くつくと心得よ。

EDLPはEvery Day Low Price(毎日が低価格)の頭文字である。これは、通常価格から不定期に特売価格へ下げるのではなく、常に一定の低価格で提供するという企業の価格戦略のことだ。
EDLP戦略で名を馳せているのが米国大手スーパーマーケットチェーン「ウォルマート」だ。ウォルマートは市場に低価格を導入する名手であり、名手と評されるだけの理由がある。米国で消費者1人あたりの支出の8%近くをウォルマートが占めている※1。
米国の93%の世帯が過去12ヶ月の間にウォルマートから商品を購入した実績がある※2。最低限の利幅しかとっていないにもかかわらず、毎分2万ドルの利益を上げている※3。
消費者が低価格を求めてウォルマートに押しかけるのは当然だろう。
だが、消費者はスターバックスにも押しかける。とはいえ、スターバックスはコーヒーにかけては低価格の名手とは正反対の立場にある。事実、価格を下げたことはないし、今後も下げるつもりはない。
※1「2002年、米国の全小売店舗(自動車部品店を除く)に支払われた額の1ドルあたりにつき7.5セントがウォルマートに支払われた」チャールズ・フィッシュマン、『ファスト・カンパニー』誌2003年12月号
※2「ウォルマートは、自分たちは流行であると誇示している」アン・ジマーマン、『ウォールストリート・ジャーナル』2005年8月25日付
※3「ウォルマートの利益、1分あたりの利益2万ドルに到達か」ヒューバート・ヘリング、『ニューヨーク・タイムズ』2005年2月27日付