
競争の激しい飲食業界の中でも唯一無二の存在として強いブランド力を保つ「スタバ」。安易な低価格路線に与せず、質の高い顧客体験価値を提供する独自のマーケティング戦略とは? 本連載では『スターバックスはなぜ値下げもCMもしないのにずっと強いブランドでいられるのか? (新装版)』(ジョン・ムーア著、花塚恵訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)から、内容の一部を抜粋・再編集。スターバックス社内において暗黙の知見として共有されてきたビジネスルールの一端を紹介する。
今回は、市場で圧倒的な地位を獲得したにもかかわらず、スターバックスがリスクを取り続ける理由、企業の成長を狂わす「3つのC」について解説する。
自己満足に陥るな、現状維持に抵抗せよ、うぬぼれをうち砕け。

市場を独占し、目下のところ強力なライバルも見あたらないのだから、そんなにあくせくしなくてもいいのではないか、とスターバックスに対して思うかもしれない。スペシャルティコーヒー市場を基本的に独占し、その勢いだけで「世界中に最低3万店舗」という会社としての目標を達成できるのではないか。
だがスターバックスは、いつ何どき、今の成功が音をたてて崩れ落ちるかわからないという考え方をする企業なのである。市場がラテ愛好からエスプレッソ追放に突然変わるかもしれない、という危惧を抱いている。
スターバックスは色々な面で、会社を立ち上げた当初の心意気でビジネスに従事している。いつまでも起業精神を忘れずにいるのは、「3つのC」に屈しないことにしているからである。3つのCとは、Complacency(自己満足)、Conservation(現状維持)、Conceit(うぬぼれ)。この3つのせいで、多くの企業の成功や成長が狂わされてきたのである。
■ 企業の成長を狂わす3つのC ①自己満足
Complacency(コンプラセンシー=自己満足)とは、現状の自分に満足してしまっていることである。この状態にあると、順調に進んでいると思い込んで、その妨げとならないよう、新しいことを何もしようとしない。
スターバックスが現状に満足していたなら、1995年にフラペチーノを発表しなかっただろう。そんなことはせずに、単なるラテのアイスバージョンで十分だと思ったに違いない。フラペチーノ類は店舗の年間売上の20%近くを占めるので、フラペチーノがメニューに加わらなかったら、今ほどの規模にはとても成り得ていないはずだ。