
今日の株式会社の原型とされる「英国東インド会社」が設立されて400年あまり。地球レベルでの気候変動や人権問題、続発する紛争など、世界が大きく揺れ動く現代において、株式会社は社会とどう向き合っていくべきなのか。本連載では『会社と株主の世界史 ビジネス判断力を磨く「超・会社法」講義』(中島茂著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「株式」を巡る歴史をひもときながら、これからの株式会社の在り方や課題を考える。
今回は、株主と経営者が会社に対して果たすべき「2つの約束」に注目し、「株式会社」というシステムを運用するために必要な前提条件について考える。
株主も経営者も、「社会的責任」を背負っている

(1)株主有限責任制が公共性の根拠
① 株式会社は公共性を背負っている
株式会社が「人々の役に立つこと」を目的として設立され、かつ運営されるべきものであることは、右にみたように歴史的事実に裏付けられています。そればかりではなく、株式会社が「世のため、人のために役立つこと」は「株主有限責任制」が認められるための「条件」であり、「株主」「経営者」たちの「約束」でもありました。それは今日でも変わりません。株式会社は、設立された瞬間から「人々の役に立つこと」を義務付けられている、「公共性」を背負っているのです。
② 株主有限責任制は公共性を守ることを条件に承認された
英国で1856年株式会社法によって「株主有限責任制」が確立されたいきさつを思い出してください(第4章)。1830年にリヴァプール・アンド・マンチェスター鉄道が開通してからというもの、英国政府は「人々の役に立つ」鉄道事業を拡大し、全国的に進める必要性に迫られていました。
しかし「名士」たちで構成されている政府も議会も、株主有限責任制を前提とする株式会社はどうしても認めたくなかったのです。「有限責任などと宣言したらどんな人間が株主として会社経営に加わってくるか分かったものではない。やはり大事業は政府管理下で行うべきだ」という信念です。
にもかかわらず、政府管理では多数の巨大事業をどうにもこなし切れなくなったため、やむなく、最後には一般市民に「有限責任」という「特典」を与えて株式会社方式をとることを認めます。鉄道事業が必要とする巨額資金を、多くの人々の出資で集めるためです。「政府管理以外には株式会社しか選択肢はない」という、ジョン・ステュアート・ミルの苦渋に満ちた言葉が思い出されます。