
2025年で創業120年を迎えたコクヨ。文具をはじめオフィス家具、オフィス通販、インテリア販売などを手がけ、海外へも展開しているが、実はここ20年ほどの間、売上は約3000億円で足踏み状態が続いていた。2015年に5代目の黒田英邦(ひでくに)氏が社長に就任して以来9年間、さまざまな改革を進め、2023年からは再び成長軌道を描き始めた。それぞれの改革の取り組みと、それをリードするキーパーソンに取材し、老舗企業コクヨに今どのような変化が起きているのかを解き明かす。
今回は、黒田社長と共にコクヨの哲学を明文化し、標準化し、会社共有の価値に置き換えている経営企画本部クリエイティブセンタークリエイティブ室の安永哲郎氏に話を聞いた。
感性価値で事業開発する実験
コクヨ経営企画本部クリエイティブセンタークリエイティブ室の安永哲郎氏は、1999年に新卒で入社した。初めに配属されたのは情報系の部署で、当時は企業のITインフラを提案することがビジネスチャンスとなっていた。入社3年目に、当時新設されたばかりの新規事業開発部門に異動する。その部署で担当したミッションとは、それまでとは180度違い、感性価値を提供する事業を開発していくというものだった。
「2001年~2002年頃、文具などコモディティ商品が主力のコクヨの中で、多様化する趣味嗜好に応えたり創造性をどう伸ばすかなど、もっと個々人のパーソナリティーに寄り添ったものが事業の種にならないかということを模索し始めました。さまざまなフィジビリティー(実現可能性)の検証を繰り返し、今考えるとかなり実験的なことに取り組もうとしていました」(安永氏)
そこでテーマとしたのが「アートとプロダクト」。現代美術への関心から生まれたギャラリーや若手作家らとのつながりから、消費財であるノートにアートの作品性という価値を組み合わせることで新たな商品価値をつくれないかという実験的な取り組みをする。大量生産では考えられないような素材や生産方法にチャレンジした結果、1冊数千円を超えるノートシリーズを限定発売した。
ビジネスとしての成果は残せなかったが、通常は企画段階でボツになる可能性が高いと思われる企画だ。しかし、コクヨはあえて企画を実現させ、商品化の実績を残した。20年前のエピソードだが、コクヨという会社の未来に対する姿勢をうかがうことができる。
