普段から災害に備えることが大切だと分かっていても、消費者にとって「非常時にしか価値を感じられないもの」を用意するのはコストであり、そのため防災はビジネス化が難しい領域と言われる。そこで今、「備えられない」ことを前提に、社会状況(フェーズ)を区分しないデザイン設計が、さまざまな業種で注目され始めている。本連載では『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(佐藤唯行著/翔泳社)から、内容の一部を抜粋・再編集し、「フェーズフリー」の考えを生かしたビジネスの可能性を探る。
第3回では、災害などの非常時にも価値を発揮するコクヨや明治の商品事例から、フェーズフリーな商品やサービスが持つ、市場での優位性について考える。
「日常」はレッドオーシャンになっている
私たちが普段接するあらゆる商品やサービスは、そのほとんどが民間企業によって生み出されています。
「こんなものがあると便利だな」
「こんなサービスがあって助かった!」
そう思えるものと出会えると、私たちの暮らしの質は格段に上がります。
ですからどの企業もこぞってそんな商品やサービスを生み出そうと切磋琢磨しているわけですが、アイデアを生み出すのは、そう容易なことではありません。
隠れたニーズをくみ取るべく、ユーザーインタビューで生活者の声を聞き、どんなことに困っているのか、どんなものやサービスなら使ってみたいと思うか、さまざまな角度から検討し、浮かびあがってきた課題を解決するような商品やサービスをプロトタイピング(試作)し、テストマーケティングを経て商品化・サービス化する――。そんなプロセスをたどって日々さまざまな企業から新商品や新サービスが生まれています。
けれども難しいことに、多大な予算や人員をかけて生み出された商品やサービスがヒットするとは限りません。わずか数カ月で店頭から消えてしまうものもあれば、思うようにユーザー数を集められず、人知れずサービス終了してしまうものも少なくない。
どうしてこうしたことが起こってしまうのでしょうか。なぜなら生活者が思い描いているのは、あくまで日常時における「あったらいいな」であり、往々にしてそれは似通ったものになってしまいがちだからです。