こうした特徴は非常時においても、大きな価値を発揮します。たとえば、災害対策本部を立ち上げたり、ソーシャルディスタンスの取れるレイアウトを作ったりする手間を、大幅に削減できるのです。

 また、それぞれのデスクにはソロワーク時に集中して働くための半透明パネルを設置できるため、これを用いれば、飛沫感染のリスクを低減できるほか、たとえば災害時に臨時の申請・面談用窓口を設置する際などにも、即時にプライバシーに配慮した環境の用意が可能になっています。MULTISは、多様なワークスタイルという日常のクオリティを高めつつ、非常時のオフィス環境の質も高められる製品なのです。

 コクヨはほかにも、同様のコンセプトで企画されたロビーチェアー「SOLOS(ソロス)」や、パーテーションとホワイトボードの機能をあわせ持つ「GRABIS(グラビス)」といった、複数のフェーズフリー認証商品を開発。特にSOLOSは、公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会によるJIDAデザインミュージアムセレクションに選定されるなど、幅広い観点から評価される商品となりました。

事例
明治 液体ミルク「明治ほほえみ らくらくミルク」

 フェーズフリーをマーケティングに取り入れた例として、食品メーカーの株式会社 明治の事例も紹介させてください。明治は長年、乳児用の粉ミルクを製造しており、世界で初めてキューブ型の粉ミルクを開発したことでも知られています。

 そんな明治は2019年に、液体ミルク「明治ほほえみ らくらくミルク」を発売しました。もともと液体ミルクは、海外では1970年代から普及していましたが、日本で製造・販売が可能になったのは2018年に食品衛生法が改正されてからです。その機運が高まったのは、2016年の熊本地震の際、フィンランドから救援物資として液体ミルクが送られたことがきっかけでした。

 粉ミルクの場合、ミルクを作るには清潔な70℃のお湯に粉を溶かし、人肌まで冷ます必要があります。しかし避難所では、清潔な水を用意するのも、お湯を沸かすのも大変なことです。一方、液体ミルクならそのまま哺乳瓶に移して飲ませることができます。液体ミルクはそうした有用性から注目を集め、市民からの要請もあり、法改正、そして国内メーカーによる製造販売につながったわけです。