花王の小田原研究所
写真提供:共同通信社

「特許」には企業の過去から現在に至るまでの発明・イノベーションの歴史が記されている。いずれも専門的な情報が多く、読み解くのは容易ではない。しかし、そこには企業や事業の価値、ひいては「未来」をも予測する貴重な情報が数多く示されている。本連載では『Patent Information For Victory ~「知財」から、企業の“未来”を手に入れる!~』(楠浦崇央著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。知財力に優れた国内2社の事例を元に、特許戦略の最新事情を解説する。

 第3回は、ヘルスケア・メディカルに特化した花王の新規事業「Another Kao(アナザー花王)」にフォーカス。これまで培ってきた計測技術による、新たなビジネス領域進出の狙いや背景を探る。

■ 新規事業で、「もう一つの花王」を生み出せ!

 花王がメディカル分野へ進出し、生まれ変わろうとしている背景には、大手EC企業に対する強い危機感があります。例えば、Amazonのような流通業者の支配力が高まっており、「早く」「安く」「大量に」商品を納入するようなプレッシャーが、メーカーに常にかかっているんですね。

 このままだと「流通業者の下請けになる」という危機感が、花王にはあるわけです。消費者からすれば、Amazonは非常に便利なのでよく使いますが、モノづくりをするメーカーの側からすれば、Amazonのプレッシャーに負けずに付加価値をきちんと取れるところがどこか、常に探しているのが実際のところなんですね。

 規格化された製品を安く大量生産、大量販売する事業にはもう限界がある。その限界を突破するために、自社の強みを活かして「プレシジョン」「ヘルスケア・メディカル 」を軸とした「Another Kao(アナザー花王)」、つまり「もう一つの花王」を立ち上げる。これが、花王が新規事業を次々に生み出している理由なんですね。

 NTTやプリファードネットワークス以外にも、業界のトップ企業との協業に、花王は次々と取り組んでいます。2022年4月20日のニュースリリースには、「日清食品が研究を進めている最新のテクノロジーに基づいた『完全栄養食』の進化に向け、花王が提供する『仮想人体生成モデル』を活用した新たな取り組みを開始する」と書かれています。