多くの日本企業では、長く続いた新卒採用と終身雇用、年功序列のメカニズムによって、年数がたてば自動的に部下を持つ管理職社員を生み出している。しかし、マネジメントの意義や役割を理解しないままの管理職は、ともすればボトルネックとなり、企業成長の機会を奪うことにもなりかねない。

 そこで、元日本マイクロソフト業務執行役員で、現在は圓窓代表取締役や武蔵野大学アントレプレナーシップ学部専任教員を務める澤円(さわ・まどか)氏が、マネージャーの役割とマインドセットを説く。

本稿は、Japan Innovation Review主催の「人・組織・働き方イノベーションWeek 2024 <秋>」における「特別講演:“働く”をもう一度考える~ご機嫌であることのすすめ~/澤円氏」(2024年9月に配信)をもとに制作しています。

経営者と一般社員、マネージャー、それぞれの違い、本来の役割とは

澤円氏(以下、澤) 全てのビジネスは社会貢献のためにあります。社会貢献を最大化するための仕組みとして「会社」が存在します。ある程度の規模になってくると、会社は役割ごとに三層に分かれていきます。経営者、マネージャー、そして一般社員です。

 経営者は、全体像が見えている必要があります。ここでいう全体像とは、会社だけにとどまらず、国内でのポジションや世界規模のエコシステムなども含まれます。その全体像を把握することが経営者に求められる仕事です。
 マネージャーは、社内の内部構造が見えている必要があります。自分がマネジメントするチームは当然のこととして、社内の他部署との連携についても考える必要があります。
 一般社員は自分の担当領域のタスクを、求められるクオリティを満たせるように仕事に取り組みます。

 一般社員が「自分のタスクは何のためにあるのだろう」と分からなくなったときに、きちんと説明することがマネージャーの仕事です。経営者が標榜する社会貢献の姿を実現するために、一般社員一人ひとりが正しい方向性を保ちながらタスクに取り組めるようにするのです。

 同じ方向性を持ちながらメンバーが働けるようにするために必要なマネージャーの仕事は、ビジョンを決めることです。ビジョンは北極星であり、方向を見失わないようにするための目印です。
 その後は、社員が全力疾走できるように、道をしっかり掃除しておいてあげましょう。
 これはつまり、一般社員がただひたすら仕事に集中できる環境を整えてあげることです。
 環境を整えすぎると、社員が自分の頭で考えなくなるのではないか、と心配する人がいます。これは、無用な心配です。道を掃除することと、走り方を教えることは別物です。また、ビジョンとは方向性のことで、ゴールではありません。環境を整え、余分な心配事をせずに走ることができれば、いい結果につながります。

 このとき、マネージャーが絶対にしてはいけないことは、一般社員との競争です。チームメンバーが自分よりもできるのは悔しい、という人はマネージャーになってはいけません。プレーヤーに戻ってください。