「夢の新技術」とも呼ばれる次世代型太陽電池「ペロブスカイト」。その実用化に向け、国内・海外を問わず各メーカーがさまざまな研究開発を進めている。今後、量産化の動きで先行する中国企業に対抗するために、日本メーカーはどのような戦略を取るべきなのか──。前編に続き、2024年9月に著書『素材技術で産業化に挑む ペロブスカイト太陽電池』(日刊工業新聞社)を出版した日刊工業新聞社の葭本隆太氏に、国内メーカーの動向と今後の課題について聞いた。(後編/全2回)
いかにして「規模の経済性」の競争を回避するか
──前編では、ペロブスカイト太陽電池が注目を集める背景や、国内完成品メーカーの取り組みについて聞きました。著書『素材技術で産業化に挑む ペロブスカイト太陽電池』では、日本国内で「フィルム型・ガラス型」の研究開発が進む一方で、中国ではシリコンと積層した「タンデム型」の研究開発が主流とあります。国内完成品メーカーが世界市場で生き残るために、この分野の違いはどのように捉えればよいのでしょうか。
葭本隆太氏(以下敬称略) ペロブスカイト太陽電池の世界市場が2040年には2兆4000億円に拡大し、そのうちの7割がタンデム型という富士経済の予測があります。そこに照らすと、やはりタンデム型の市場が大きなものになると見られます。
一方、国を問わず脱炭素化を推進する方法の1つとして「建物単位でCO2排出を抑制する」ことも求められていくと考えられるため、フィルム型・ガラス型のように、建物の外壁に設置したり、建材と一体化したりできる太陽電池の需要も増えていくはずです。
価格競争の観点では、中国が事業化に成功すれば、有利になるかもしれません。同じものをたくさん作ることで量産効果が出るため、規模の経済性については国内市場の規模が大きい中国に分があると指摘されます。
しかし、中国メーカーなどの動きは積水化学工業やパナソニックなどの完成品メーカーも意識しています。だからこそ、各社は価格競争だけにならない市場を模索していると感じます。
例えば、パナソニックは建材ガラスに直接ペロブスカイト層を塗る「発電する建材ガラス」について顧客に応じて多様なサイズで作ったり、透過度を制御したりするセミカスタム型の製品で市場に参入しようとしています。積水化学工業は、技術的に難しいとされ、競合の少ない「フィルム型」を製造することで、「薄くて曲がる」という特性を生かした活用を狙っています。
「設置場所を選ばない」というメリット以外にも、搬送しやすい特性を生かして「運搬・設置コストを下げる」「防災用として倉庫に収納し、緊急時に使いやすい」といったメリットが考えられます。
各社が武器とする素材や技術を生かし、価格競争だけにならないビジネスモデルを確立することがカギになるのではないでしょうか。そうして勝ち筋を見出せるかどうかが、今後、世界市場で日本が生き残る道にもつながると考えています。