〈左〉日揮 未来戦略室 室長の五十嵐知之氏(左)とアシスタントマネージャーの永石暁氏(右)。(写真:矢島幸紀)/〈右〉北海道、苫小牧で始まった実証実験の様子。折板屋根の上にある黒いシートがペロブスカイト太陽電池だ。「霧の苫小牧」という呼び名があるほど、苫小牧は曇りの日が多いが、太陽光が弱くても発電できるペロブスカイトの特徴を確認する意味でも苫小牧は実験に適地とのこと

 次世代の太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」の研究開発やビジネスの最前線をレポートする本連載。今回取り上げるのは、世界80カ国で2万件以上のプラントを建設、運営する日揮グループだ。同社は国内事業会社の日揮に未来戦略室という新部署を設置し、スタートアップと協業しながらペロブスカイト太陽電池市場への参入を目指している。未知の市場をどのように切り開こうとしているのか。キーマンに聞いた。(第3回/全3回)

<連載ラインアップ>
第1回 失われた太陽光発電世界シェアを取り戻せるか? NEDOが支援する「軽くて曲がる」次世代太陽電池の大きな可能性
第2回 40年来の薄膜技術を活用、カネカが描く「ペロブスカイト太陽電池」が身近にある未来社会
■第3回 ぺロブスカイト太陽電池で「どこでも発電所」実現へ 日揮が乗り出す次世代太陽電池ビジネスの勝算(本稿)


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ペロブスカイト太陽電池で初の発電事業を目指す

 各種プラントを建設、運営する日揮グループ(以下、日揮)は、メガソーラーといった太陽光発電施設の建設経験も多い。岡山県美作市に75万枚の太陽電池パネルによる発電量257MWという国内最大級のメガソーラーを建設する他、1MW以上のメガソーラーを今まで20件以上手掛けている。

 今、日本国内には太陽光発電を拡大しようという機運が高いが、大きな問題がある。2012年の太陽光発電の一定量を国が買い取るというFIT制度によって多くの発電設備が設置されたことで、2020年の段階で既に国内において、新たにメガソーラーを設置できる平地がなくなってきているのだ。

 内閣府の「GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた専門家ワーキンググループ」からは、太陽電池を「既存の技術では設置できなかった場所(耐荷重の小さい工場の屋根、ビル壁面等)にも導入を進める」べきという提言もなされている。

 日揮はこうした状況も踏まえ、発電設備の代替地として、太陽電池の水上設置など平地以外に設置できる技術の拡張を進めている。

 そして、もう1つ、全く別の方向から進めている対策が「次世代太陽電池の筆頭候補、ペロブスカイト太陽電池の活用」だ。

 日揮 未来戦略室長の五十嵐知之氏は「現在の主流であるシリコン系太陽電池は転換点にあり、今後は建物の壁や窓といった従来は難しいとされてきた場所にも設置できる薄膜太陽電池、中でもペロブスカイト太陽電池が主流になると判断しました」とその背景を説明する。

五十嵐 知之/日揮 未来戦略室長

2004年入社。海外にてビジネスマネジメントや事業開発に従事する傍ら、ライフワークとして社内有志と共にアグリビジネス開発に携わる。2015年にロシアで野菜生産・販売事業会社を立ち上げ。4年間経営に携わった後、帰国し、現職で会社変革の起爆剤となるべく経営企画や新規事業開発を担当。

 2020年ごろにペロブスカイト太陽電池へのコミットを決定した日揮は、まず太陽電池そのものの確保に動く。日揮にはペロブスカイト太陽電池を製造する部署がないため、2022年にペロブスカイト太陽電池を開発・製造する京都のスタートアップ企業「エネコートテクノロジーズ」に、日揮などが運営するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)ファンドを通じて出資し、協業体制を構築した。

 五十嵐氏は「エネコートテクノロジーズ社が製造するペロブスカイト太陽電池を日揮が設置し、そこで得られたデータをエネコートテクノロジーズ社にフィードバックしながら、太陽光発電の開発や発展に貢献していく方針です」とペロブスカイト戦略の基本線を説明する。

 その後、日揮とエネコートテクノロジーズは2023年10月に北海道苫小牧の物流施設でペロブスカイト太陽電池の実証実験を行うことを発表(2024年4月開始)、同年12月には神奈川県、エネコートテクノロジーズ、日揮の3者で、脱炭素に向けたペロブスカイト太陽電池の活用で連携協定を結ぶなど取り組みを加速させている。