今まで無理といわれた「プラントや倉庫の屋根」で発電

アシスタントマネージャー 2010年入社。国内外のプロジェクトにて機械系エンジニアを10年ほど経験した後、自ら新たな事業を生み出したいとの思いから現部署に異動。経営企画では中期経営計画に携わりながら、新規事業開発とCVCファンドとの取り組みでエネルギーを担当。「どこでも発電所」事業ではプロジェクトマネージャーとして事業化にまい進中。
さらに日揮が乗り出そうとしているのは、ペロブスカイト太陽電池の新たな設置場所の開拓だ。
設置場所として考えているのは、同社が今まで大量に施工してきたプラント、工場、倉庫の「屋根」。
「脱炭素の流れの中、何とかして工場や倉庫の屋根に太陽電池を設置し、発電したいというニーズは非常に強い」(五十嵐氏)という状況に対し、「建物の屋根や壁にペロブスカイト太陽電池を提供、提案できる可能性は高いと思っています」と未来戦略室のアシスタントマネージャー永石氏は語る。
工場や倉庫の屋根というと、既に太陽光発電が設置されていると思われがちだが、実はいまだに工場の屋根への太陽光発電の設置に助成金が用意されているなど、未設置の屋根は多い。
未設置の理由はさまざまあるが、大きな理由の一つが「屋根の耐荷重が低いこと」だ。国内の工場や倉庫の屋根はアルミや亜鉛でメッキした金属板を波型に折り曲げた「折板屋根(せっぱんやね)」が多い。曲げることで0.6~1.2mmの厚みの金属板でも雨や風をしのぐには十分な強度を保て、かつ安価で施工も早く済むことから人気が高い。


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しかし、折板屋根はもともと重量物を載せることを想定していないので、耐荷重が低く、現在の主流であるシリコン系の太陽電池パネルは重過ぎて設置が難しい。一般的なシリコン系の太陽電池パネルの重量は1枚当たり約15kgだが、工場の場合、それを数百枚並べることもあり、合計数トン以上を載せることもある。加えて、重いパネルが風で飛ばないようにフレーム等でしっかりと固定する必要もあり、この重量も屋根への負担になる。

そこで日揮が目を付けたのが、ペロブスカイト太陽電池だった。ペロブスカイト太陽電池とシリコン系太陽電池を比較すると、発電素材としての厚みはペロブスカイト約0.03ミリメートルに対し、シリコン系が30~40ミリメートルとペロブスカイトはシリコン系の100分の1。
電池自体の重量は1kWの発電出力に対し、ペロブスカイト太陽電池はシリコン系太陽電池の25分の1だが、設置の際には風や雨を防ぐ防護ガラスや設置のためのフレームが必要となるため、それらを加えたパネルの状態で比較すると、ペロブスカイトはシリコン系の10分の1程度の重さになる(ペロブスカイト太陽電池は多少ゆがんでも発電できるため、こうした補強部材が少なく済み、軽量に仕上げられる)。
そのため、今まで耐荷重が低くて、太陽電池パネルを諦めていた工場や倉庫の屋根に、ペロブスカイト太陽電池を設置できる可能性は高い。
また、重さが10分の1なら、パネルの屋根などへの設置作業も簡単になり、設置コストも大きく削減できる。現在、シリコン系太陽発電の導入にかかる総コストの「4割近くはパネル設置作業などの工事費」(永石氏)といわれており、「設置コストの圧縮が総コストの低減を加速させる鍵だと思っています。ペロブスカイト太陽電池は軽量なので設置の工数も下げられます。日揮では現在、ペロブスカイト太陽電池の簡易な設置方法の開発を進めています」(五十嵐氏)。
既に、その方法も目処が立っており、日揮では折板屋根向け「夏の暑さ対策用遮熱シート」の上に直接ペロブスカイト太陽電池を貼り、それを屋根の上に留め具で固定する取り組みを進めている。この方法なら4人で1日当たり約500平方メートルのペロブスカイト太陽電池を設置できるという。シリコン系太陽電池では4人で1日当たり数十平方メートルといわれているので、10倍以上の作業効率が見込め、設置コストも大幅な低減が可能になる。

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