日本生命保険相互会社 執行役員総合企画部長の増山尚志氏 (撮影:宮崎訓幸)
写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 人口減少時代、日本の生命保険市場は長期的な縮小が予想される。こうした中、日本生命保険は2035年のグループ基礎利益を、2021~23年平均の6800億円の2倍に伸ばすとの長期目標を掲げている。こうした方針に基づき、先ごろ米保険会社への大型出資が発表された。この他、国内市場のさらなる強化、デジタル活用など、同社は積極的な取り組みを推進している。

 日本生命保険執行役員総合企画部長の増山尚志氏に、2024年3月に発表された中期経営計画の狙いと成長戦略について聞いた。

出遅れた米国保険市場に大型投資

増山 尚志/日本生命保険相互会社 執行役員総合企画部長

1993年入社。営業企画部担当部長、チャネル開発部長、2019年はなさく生命保険代表取締役社長を経て、2024年3月より現職。

 2024年5月26日、日本生命保険は米生命保険会社、コアブリッジ・ファイナンシャルへの出資を発表した。日本生命保険(以下、日本生命)は約38億ドル(約6000億円)を出資し、発行済み株式の20%を取得する。関係当局の認可などの手続きを経て、早期の出資完了を目指す。コアブリッジは日本生命の持ち分法適用会社となる。

 コアブリッジの親会社は米保険大手のAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)だ。AIGは生保・退職年金などの事業を2022年に切り離し、ニューヨーク証券取引所に上場させた。上場後にAIGはコアブリッジ株式の約52%を保有していた。その5分の2を、日本生命が取得することになりそうだ。

 米国市場におけるプレゼンスにおいて、これまで日本生命はライバルの後塵を拝してきた。2010年代半ば、他社は相次いで米保険市場に4000億円台~6000億円台の投資を実行。第一生命保険はプロテクティブ生命、住友生命保険はシメトラ・フィナンシャル、明治安田生命保険はスタンコープ・ファイナンシャル・グループを買収した。それから10年近く経って、日本生命保険の大型出資が実現した。

 日本生命は長期方針の中で、2035年のグループ基礎利益を2021~2023年の平均値6800億円の2倍にするとの目標を打ち出している。また、今年3月に発表された日本生命の中期経営計画(2024~2026年)でも、海外事業の拡大は重要な柱と位置付けられている。同計画では「米国等の先進国を中心とした保険・アセットマネジメント会社への大型新規出資の検討」と、積極的な姿勢が示されている。それから数カ月後、コアブリッジへの出資が公表された。

 出資発表の直前に取材に応じた同社執行役員総合企画部長の増山尚志氏は「市場の大きさや安定性、成長性などを考慮して、米国市場を優先したいと考えています」と語っていた。そのときはおそらく、発表を待つばかりだったのだろう。増山氏はこうも語っている。

「ここ十数年、海外ではアジア市場を中心に事業強化を進めてきました。米国以外の海外市場にも引き続き注力するつもりです」

 日本生命グループの2023年度決算は、保険料等収入が8兆5983億円(前期比34.9%増)、本業のもうけを示す基礎利益が7640億円(61.5%増)。感染症関連の支払い減少などもあって、大幅な増益だった。今期または来期以降、コアブリッジが持ち分法適用されると基礎利益で約900億円の上積みが見込まれ、海外比率は大きく増加することになる。

 今後は、コアプリッジ株式買い増しの可能性も考えられる。日本生命の海外事業への取り組みは拍車がかかりそうだ。