(写真左)セブン銀行 常務執行役員 ATM ソリューション部、ATM +企画部 担当 深澤 孝治氏
(写真右)日本電気 Corporate SVP 兼 金融ソリューション事業部門長 岩井 孝夫氏
※どちらも2024年取材当時

 2023年9月にサービスを開始したセブン銀行の「+Connect(プラスコネクト)」。全国に約2万7000台、原則24時間365日稼働するセブン銀行の新型ATMで、さまざまな手続き・認証ができるのが特長だ。地方銀行などでは窓口業務をこの新サービスに代替することで、事務処理などが効率化できる。同事業を手掛けたセブン銀行常務執行役員の深澤 孝治氏とNEC Corporate SVP 兼 金融ソリューション事業部門長の岩井 孝夫氏に、両社の共創の背景や今後の展望を聞いた。

地方銀行と一緒に新しい価値を生み出す

――セブン銀行が地方銀行との共同事業を始めたきっかけは何ですか。

深澤 孝治氏(以下敬称略)
 地域の経済にとって、地方銀行はなくてはならない存在です。時代の変化に対応するため、地方銀行はさまざまな変革を進めています。

 一方、当社はコンビニATMを通じて約23年間リテール向けの金融事業を行ってきましたが、まだまだ新しい価値を生み出すことができると考えています。地域にお住まいの方にとって最も近い存在である地方銀行と一緒に価値創造に取り組めば、地域の金融サービスをより身近で、便利なものにしていくことができると考えました。それが、地方銀行との共創の一番大きな目的です。

 地方銀行の特徴である、地域に根ざしたきめ細かいサービスという特徴を、これからも成長させていくためには、デジタルの力が大きな役割を果たします。デジタルを活用することで、お客さまに対して金融サービスとしての高い安全性と、利便性の両立を図ることができると考えています。

 地方銀行との共創では、当社のATMというリアルチャネルを顧客接点としてお使いいただくことで、身近で安全な金融サービスという新しい価値を目指して開発を進めてきました。その具体的な成果の1つが、2023年にサービスを開始した「+Connect(プラスコネクト)」サービスの「ATM窓口」です。

岩井 孝夫氏(以下敬称略) NECとしても、+Connectは、セブン銀行だからこそ担うことができる事業であると感じています。セブン銀行ATMは、全国に2万7000台あり、利用者の生活に近い存在です。デジタルとリアルを融合する有力な接点になり得ます。

セブン銀行では、地方銀行などの業務変革に向けて、課題を大きく3つと捉え、それらの課題解決のためにNEC のデジタル技術を活用する。

利用者に“やさしい”金融サービスで新しい価値を創造

――全国のセブン銀行ATMで利用できる+ConnectのATM窓口とは、利用者にとってどのようなサービスですか。

深澤 +Connectは、当社が2019年から全国展開をしてきた第4世代のATM端末をベースにした、サービスプラットフォームです。そのプラットフォームを活用したサービスの第1弾であるATM窓口は「社会で最もやさしく、最先端な金融サービスのリアルチャネル」であることを目指しました。

 金融機関が窓口や郵送で行うアナログの手続きをデジタル化し、それを生活に近い場所で行う。そうすることで、ユーザーと企業の双方に生じている負の側面を解消し、“やさしい”デジタル社会にしていけるのではないかと考えています。

岩井 従来のATMは、お金を扱う接点でしかありませんが、それ以外の手続きなどの事務を含めた安心・安全なサービスを提供する接点とすれば、利用の拡大が見込めます。セブン銀行ATMは原則24時間365日利用可能というのも利用者にとってメリットです。

深澤 新型ATMでは外観や操作性でも、“やさしさ”を意識した作りにしています。例えば、外観のデザインは、丸みのある形と白を基調としました。

 操作においては、簡単さを追求しました。住所変更や口座開設をする際、通常は名前や住所を入力する必要がありますが、ATMで文字を入力するには思いのほか時間がかかります。その手間を回避するため、入力レスにしました。

 これまでデジタルを苦手としてきた利用者にも、使いやすく安全なATMサービスを提供することは、コンタクトセンター業務の軽減など、地方銀行のバックオフィス業務の効率化にもつながり、その結果、新たなサービスの開発に向けて共創することができます。利用者、地方銀行の双方にとってうれしいサービスが、ひいては社会課題の解決につながっていくと考えています。

利用者の声に応えるために世界最高峰の技術を詰め込む

――セブン銀行×NECの共創は、いつごろからどのように進められてきたのでしょうか。

岩井
 2001年のセブン銀行の開業以来、実に20年以上にわたり、ATMの開発に一緒に取り組ませていただいています。

 両社の関係においては、「BluStellar(ブルーステラ)」のコンセプトである「Value Driver」というキーワードを意識しています。従来型SIerの枠を超え、上流から提案型でアプローチし、お客さまの成長を共にドライブするという考え方です。セブン銀行とも発注者・受注者の関係ではなく、イコールパートナーでありたいと考えています。

 +ConnectのATMの開発では、顧客体験をどう変革していくのかが重要なテーマでした。お互いに議論を重ね、チャレンジしながら今に至っています。

 具体的には、より多くの利用者に受け入れられるATMとなるよう、利用者の声を聴きながらUI/UXのデザイン開発に取り組みました。ユニバーサルデザインをベースにしつつ、“やさしさ”などのセブン銀行のこだわりをアレンジしてUI/UXのポリシーを策定し、必要に応じて条件を加え、より良いものに磨き上げてきました。

深澤 われわれは、利用者の声を特に重視しています。生活の中のターミナルを作るには、企業側が決めるガイドラインよりも、利用者の声が大切です。新たに何かをリリースする際には、必ず一般の方にテストをしていただいています。

 +Connectの開発中には、100人以上の方にモニター評価に参加していただき、ブラッシュアップを繰り返しました。ユーザーの声を直接聴ける環境があって、体験価値をお互いに共有でき、商品に生かす開発能力もある。これがわれわれの共創の強みです。

岩井 +Connectの開発においては、安心・安全・簡単を実現するために、デジタル技術をいかに活用するかもテーマでした。具体的にはマイナンバーカードなどの読み取り機能や顔認証機能の実装です。

デジタル技術の活用に関しては、UI/UX と安全・安心の両立のために、マイナンバーカードなどの読み取り機能や顔認証機能を実装した。

 NECの生体認証技術は、世界最高峰の精度を誇ります。しかし、自信のある技術だからといって、技術に利用方法を合わせようとするようではうまくいきません。利用シーンに合わせてどういう技術をどう活用する必要があるかといった考え方を大切にしています。

 特に新型ATMでは、状況がさまざまに異なる中での正確な認証が求められました。利用者には背の高い人もいれば低い人もいる。人が後ろを通る可能性もある。小さなカメラで利用者に負担をかけずに正しく認証するには技術と工夫が必要です。デザインを崩さずに、複雑な機能を筐体の中に埋め込むのも容易なことではありません。まさに、NECの腕の見せどころであったといえます。

深澤 高度でコアなテクノロジーをただ提供するだけでなく、われわれの事業にどう生かすかを考え抜いて対応してくれるNECの姿勢は、パートナーとして信頼できるところです。

さまざまな手続き・認証が可能な窓口サービスを実現

――+Connectでは、現在どのような顧客体験を提供しているのでしょうか。

深澤 主なサービスとしては、「ATM窓口」と「ATMお知らせ」があります。

 ATM窓口は、その名の通り、窓口業務がコンビニでできるものです。金融機関の窓口で行うような口座開設や住所変更といった手続きをATMで行えます。

 ATMお知らせは、金融機関が個人宛てに郵送するような案内を、ATMの画面上に通知できるものです。金融機関から届く郵便物は確認しない人も多いですが、お金をおろす際のATMの画面上で、さまざまなお知らせや案内を確認できます。回答が必要な内容には、画面上で簡単に答えることもでき、郵送による返信などの手間が省けます。

 ATMお知らせは、金融機関の業務効率化にも大きく貢献します。最近は、マネーローンダリング対策で、金融機関が最新の顧客情報を把握することが求められています。各金融機関は個人に最新の情報を確認する必要がありますが、郵送以外のコミュニケーションツールがない場合もあり、手間やコストがかかっているのが現状です。この課題の解決につながるサービスとなっています。

岩井 郵送以外の手段にはメールもありますが、他のメールに埋もれてしまって見落とされたり、不審メールとみなされて開いてもらえなかったりといったことがあります。悪質なフィッシングメールは実際に多数存在するため、利用者からすれば、メールの送受信に慎重になるのは当然のことともいえます。

 その点、ATMというリアルで信頼できる場は、安心して通知を確認できます。詐欺に巻き込まれるようなリスクがないため、社会コストを下げることにも貢献できると考えています。

深澤 安心・安全なプラットフォームとして評価され、+Connectの利用は徐々に広がっています。当初は金融機関での継続的な顧客管理といったユースケースが多かったのですが、銀行口座開設やローン申込などの顧客獲得のチャネルとして使われる機会も増えてきました。

 また、ホテルのチェックインや人材登録の本人確認などに利用する一般事業会社も増えています。さまざまな手続き・認証に利用できるので、今後、銀行やノンバンク、事業会社、行政など幅広い業界で活用いただけるようになるものと期待しています。

リアルの場にあるチャネルをサービスプラットフォームに

――ATMを基盤にしたサービスを、どのように発展していきますか。

深澤 将来的にはATMの枠を超えて「街のサービスプラットフォーム」にしていきたいと考えています。デジタル化が進む中、リアルの場にあるわれわれのチャネルが、「最もやさしいデジタルチャネル」と言われるようになりたい。

 そのためにはテクノロジーをうまく活用する必要があります。ひいては、テクノロジーを理解していて、われわれの事業への理解もあり、ビジネス側の視点を持って会話ができるパートナーが必要です。NECにはその3点を引き続き期待し、こちらとしてもNECの良いパートナーでありたいと思います。

岩井 NECでは、第三の創業として社会価値創造をうたっています。セブン銀行と取り組んでいるようなコラボレーションを通じて、社会の一歩先を行く価値を提供し続ける存在でありたいと思います。

<PR>