Ⓒispace

 民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。

 第3回からは2回にわたり、熱を帯びる各国の月面探査機の打ち上げ競争や民間の宇宙開発企業の資金調達方法に迫る。第4回となる後編では、アストロボティック社をはじめとする米国企業や日本のispace(アイスペース)の資金調達の工夫を解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 スペースXが開発した史上最大のロケット「スターシップ」は何がすごいのか
第2回 ボーイング傘下の国策ロケット企業を、なぜジェフ・ベゾスが狙うのか?

第3回「SLIM」をはじめとする月面着陸ラッシュ、なぜ多くの国や企業が「水の氷」に注目するのか?
■第4回 世界唯一で史上初、ispace社は民間資本だけで月面着陸にどう挑んだか?(本稿)


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月面に到達するための資金調達

ファルコン9ロケットの第2段から切り離され、月への軌道に投入された米インテュイティブ・マシーンズのNOVA-Cが広角レンズで捉えた地球。ⒸIntuitive Machines

 第3回で紹介したリストにある11機のうち、日本のOMOTENASHIとSLIM、インドのチャンドラヤーン3号、ロシアのルナ25号、中国の嫦娥6号の5機は、国家事業、つまり国家予算によって打ち上げられた機体だ。

 一方、米国の民間企業であるアストロボティックのペレグリン M1とグリフィン、インテュイティブ・マシーンズのNOVA-C 、ファイアフライのブルーゴーストの4機は、NASAが主導するアルテミス計画の「商業月面輸送サービス」(Commercial Lunar Payload Services, CLPS)というプログラムにおいて、2018年にNASAから選定された機体だ。

 このプログラムでは、まずはNASAから機材の要件が提示される。それに対して民間事業者は機材コンセプトを考案し、具体化するための見積額とともにNASAに提案する。NASAに選定された事業者は予備設計へと進み、再度NASAのチェックを受ける。そのプランが不採用になれば予備設計料しか支払われないが、本採用となれば事業者は機材を開発製造、その運用までを担う。

 その後、NASAから輸送サービスに対する追加オーダーがあれば、初期認定された際のギャラに加え、追加料金が加算される。タスクオーダー契約と呼ばれるこのシステムを導入した米国では、民間事業者による宇宙ビジネスがすでに広く浸透している。

 前述した3社がNASAから受けたプライズ(受注額)は、アストロボティックが2億7900万ドル(306億9000円/1ドル110円換算、2018年平均レート、以下同)、インテュイティブ・マシーンズが2億150万ドル(236億5000万円)、ファイアフライが2億530万ドル(278億3000万円)である。

 どの民間企業も資金調達ラウンドで潤沢な資金を調達したと思われるが、それだけでは月に届かない。このNASAからの資金提供がなければ、早期に資金が枯渇したに違いない。

 実際、この3社とともに選定されたマステンは、機体が完成する以前に資金が枯渇。2022年にチャプター11(日本の民事再生法に該当)を申請している。その結果、予定された計画はキャンセルされ、同社の資産はアストロボティックに売却されている。