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 民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。

 第3回からは2回にわたり、熱を帯びる各国の月面探査機の打ち上げ競争や民間の宇宙開発企業の資金調達方法に迫る。前編となる今回は、月資源として注目を集める「水の氷」と月面探査機の着陸ラッシュの背景について解説する。

月資源として注目が集まる「水の氷」

 半導体やバッテリーの製造に欠かせないレアメタルや、核融合発電の燃料となる重水素やヘリウム3は、地球では採取しづらい稀少な物質である。しかし、月には無尽蔵にあるとされる。もしこれらの月資源を地球に持ち帰ることができれば、人類は月から莫大な経済的利益を得るだろう。

 しかし、現在では月の鉱物や、ヘリウム3などが吸着するレゴリス(月の砂)の調査以上に、「水の氷」の発見に注目が集まっている。なぜなら月面で水が手に入れば、その後のあらゆるミッションが効率化されるからだ。

 月にある水の氷を溶かして電気分解すれば酸素と水素が生成できる。水と酸素はヒトの月面滞在に不可欠であり、水素と酸素は冷却して液化すればロケットの推進剤になる。これらが現地調達できれば、地球からの打ち上げコストが大幅に低減でき、ヒトの月面滞在がスムーズになる。

 また、これらの月資源を月周回軌道ステーションに打ち上げてプールすれば、地球へ戻る宇宙船や、または火星へ向かう宇宙船に、ロケットの推進剤や水を低コストで補給できる。月の重力は地球の6分の1しかない。そのため地球より月面からの方が、はるかに少ないエネルギーで軌道上に物資を打ち上げることができるのだ。

 月面の水を活用するには、検出器やマイニングマシン(掘削機)、太陽電池パネルや原子力電池(RTG)の他、水の電気分解装置、酸素と水素を液化するための冷却器、その貯蔵タンクなど、月面インフラを構成する大量の機材が必要になる。

 また、この複雑なミッションを遂行するにはヒトも月面滞在することになり、そのためには有人ローバーや居住モジュールの建設も欠かせない。近年、日米に限らず各国が月着陸機を打ち上げているのは、これらの物資輸送がすでに始まっていることを意味している。