発電所や鉄道、公共施設などさまざまな社会インフラシステム構築と運用を担っている日立製作所。同社のAIへの取り組みは古く、1970年代以降、幾度かあったAIブームを経ても途絶えることがなかった。現在、社内効率化と社外向けサービスにAIを組み込む両面作戦でAIの利用拡大を進める。その取り組みの中心地であるGenerative AIセンターの吉田順センター長に、同社のAIの強みとこだわりを聞いた。
勉強会から始まった生成AI活用組織
——吉田さんが率いるGenerative AIセンターは、2023年5月から運営を開始しています。パブリックな生成AIの登場が2022年末だったことを考えると、巨大企業である日立としては、かなり速い動きだと感じます。どのようなプロセスで組織を作ったのでしょうか。
吉田順氏(以下敬称略) 当社のAIの取り組みは、1970年代から始まっていましたが、長らく研究レベルにとどまっており、お客さま向けのサービスにデータ分析を本格的に組み込もうと考えたのは、2012年の「データ・アナリティクス・マイスター・サービス」が最初です。
最初は十数名の小さなチームで、製造業や小売のお客さまに対して、故障予兆検知や需要予測などデータ分析のサービスを提供していました。それが対象業務の拡大に伴って陣容も大きくなり、今は事業部と研究所のメンバー合わせて約250名の大所帯になっています。
金融、公共、電力、鉄道などのお客さまに対してもサービスを提供するようになり、実績を積み上げていますが、2022年になると生成AIが登場しました。同年末にはOpenAI社の「ChatGPT」が登場します。これは今後大きな動きになると思い、有志が集まって少数の勉強会を作り、生成AIでできることやビジネスへの影響などを検討していました。
直後の2023年、急激に生成AIへの注目度が高まり、社内でも使いたいという声が爆発的に高まりました。同時に、使っていいのか悪いのか分からない状態でもありましたので、まずは勉強会のメンバーで「ガイドライン」を作ることになりました。
その頃、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」が出てきたこともあり、お客さま企業でも生成AIを使う動きが急増しました。IT業界の各社がニュースリリースを毎日のように出す中、日立としてもきちんと取り組むメッセージを社内外に示すため、全社的な生成AIの利活用を統括する部署として、Generative AIセンターを設立することになりました。
現在、当センターを開発の中心地として、社内向けの活用環境の構築や社外向けサービスへの生成AIの取り込みが始まっています。
個人的には、さらに取り組みを加速する必要があると考えています。というのも、2023年は当社も、世の中全体も「お勉強モード」が強く、2024年もまだその感覚を引きずっていると思っています。「この技術は面白そうだから勉強したい」という声に応えて、全国を回って説明してきました。ここからは、実際にどう活用できるか、真剣に取り組む段階です。
当社には「ルマーダ(Lumada)」というデジタルサービスのコンセプトがあります。社内のビジネスユニットの垣根を越え、「One Hitachi」の強みをデジタルサービスで提供していく取り組みで、すでに多くの成果を挙げています。
このルマーダに生成AIの価値をどう乗せていくかが、当社のビジネス上の大きなテーマとなっています。私は「Chief AI Transformation Officer」という肩書でも活動していますが、社内には、デジタルイノベーションを加速するための「Chief Lumada Business Officer」もおります。ルマーダで日立を変えようとしているそれらのメンバーと共に、AIで日立の業務を変え、サービスを変えていく変革を進めているところです。