アサヒグループホールディングスから2022年に分社化し、ビールや飲料、食品などの国内事業を統括するアサヒグループジャパン。グループ内にアサヒビール、アサヒ飲料、アサヒグループ食品などの事業会社を持株会社として有する。同グループで、2023年5月に発足したのが「ジェネレーティブAI『やってTRY』プロジェクト」。ジェネレーティブAI(生成AI)をグループ各社の社員が実際の業務で試し、結果を社内で共有する取り組みだ。なぜ全社的なジェネレーティブAIの浸透を図っているのか。そして、どんな成果が生まれているのか。グループ全社でジェネレーティブAIを活用したイノベーション創造をリードするData & Innovation室長・General Managerの深津智威氏に聞いた。
ジェネレーティブAIは「議論」の前に「まず使ってみる」
——深津さんは、2023年1月に新設された組織「Data & Innovation室」の室長を務めています。Data & Innovation室はアサヒグループ内でどのような役割を担っているのでしょうか。
深津智威氏(以下敬称略) アサヒグループでは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の本質はビジネストランスフォーメーション(BX)であると捉え、ビジネスプロセス、組織・制度、イノベーション創出の各面で変革を推し進めています。
DXはデジタル技術をどのように導入するのかではなく、ビジネス変革が目的であり、それを達成する手段としてデータ利活用やデジタル技術を最適化して取り入れていくことが重要です。
Data & Innovation室は、データやAIを含む先端のデジタル技術を用いてアサヒグループ全社の変革やイノベーションをリードする組織として発足しました。デジタル技術を活用し、「生活者起点」で新しい価値を創造する仕組みづくりやイノベーションを具体化し加速させる役割を担っています。
——そのData & Innovation室が主導する「ジェネレーティブAI『やってTRY』プロジェクト」は、社内や外部環境のどのような課題を解決するために発足したのでしょうか。
深津 アサヒグループの各事業会社は、これまでビールや飲料、食品等の消費財をマスで提供する事業を長く行ってきました。しかし、生活者の価値観や趣向が多様化する現在において、より深く個々の生活者のインサイトを理解し潜在的な期待に寄り添い、マスによる一律の価値提供だけではなく一人一人のニーズに応えられる新しい価値を届ける必要があると考えています。
そのためには、データ起点で生活者のインサイトを把握し、生活者に真に望まれていることは何かを正しく理解することが重要です。特定の専門家のみならず、グループ全社員がデータを読み解きうまく活用できることの重要性を認識し、以前よりデータの利活用を進めてきましたが、高度な分析を行うには一定程度の必要な知識やスキルが必要であるため、その獲得に向けたリードタイムを踏まえるとグループ全体への効果的な展開に一層工夫を要する状況でした。
その状況を大きく変えたのが、ジェネレーティブAIの登場です。大規模言語モデル(LLM)が飛躍的に進化したことで、人間がデータを能動的に「分析する」世界から、機械(AI)との対話を通して「理解する」世界に変化しました。
これは、従来のデータ分析技術を用いて行ってきた答えを「探す」ことから、AIを活用することで「探さない」時代への変革とも言えます。近い将来、データを人間が読み解く時代は終わりを告げ、データを読み解く作業は機械(AI)が行い、人間はその結果を考察する時代が到来するだろうと考えています。
そんな未来を予想したときに、机上でAI利活用の賛否を議論する前に、ジェネレーティブAIを当社の業務にどのように役立てられそうかを見極めるべく実際に使ってみて、試行実践を通して得た成功や失敗の知見を社内で共有することが先決だと考えました。
そこで、グループ内の社員を対象に、ジェネレーティブAIの試行実践を推進し、その可能性を探るための「場」として、2023年5月に「やってTRY」プロジェクトを発足しました。