消費スタイルの「モノ」から「コト」への変化が叫ばれて久しいが、同じように製造業も「モノ(製品)」から「コト(サービス)」へのシフトが続いている。そんな中、パイオニアが進めているのが、モビリティ領域の課題を「モノ×コト」で解決するソリューションカンパニーへの変革だ。カーナビゲーションなどのカーエレクトロニクス分野をリードしてきたパイオニアが目指すモビリティ分野の課題解決とはどんなものなのか。同社の常務執行役員でモビリティサービスカンパニーCEO兼グループCISOの細井智氏に話を聞いた。
CASE、MaaSの進展に伴い、自動車業界は100年に⼀度の⼤変⾰期に突入しています。数々のディスラプターが出現しゲームチェンジが起こる中、我が国の経済、雇用を支える屋台骨たる自動車業界の行く末はどうなるのでしょうか。本特集では、自動車業界のキーパーソンへのインタビューを通して、自動車産業の未来を展望します。
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「モノ+コト」ではなく「モノ×コト」のビジネスモデルへ
――細井さんは2年前の2022年1月に日本マイクロソフトからパイオニアに転職されましたが、移籍の決め手は何だったのでしょうか。
細井智氏(以下敬称略) 私は大学卒業後、1996年に日立ソフトウェアエンジニアリング(現日立ソリューションズ)にシステムエンジニアとして入社し、1998年に日本マイクロソフトに転職しました。以来、四半世紀近くをマイクロソフトで過ごし、主にDX事業本部のトップとして、メーカー、流通、金融ほか、さまざまな業界でDX推進のお手伝いをさせていただきました。
パイオニアとの縁は、かつてシステムエンジニアだった時期に担当した経験がありましたし、同社がハードウェアとサービス事業を軸にしつつ、モビリティの世界で新たな方向にかじを切る選択をしたことからお誘いを受けました。もちろん、私が協力できることもたくさんあるのではないかと考えたのが転職を決めた一番の理由です。
また、私は個人的にクルマや音楽が好きなのですが、カーナビはずっとパイオニアの「carrozzeria(カロッツェリア)」ユーザーでしたし、一消費者としてパイオニア製品には愛着を持っていました。そういう思い入れの熱量は、仕事をしていくうえで重要な要素でもあります。
――実際にパイオニア入りしてみて、どんな問題意識を持ちましたか。
細井 2019年にカンパニー制を導入し、すでにモビリティサービスカンパニー(MSC)が立ち上がっていましたが、これまではハードウェアを主体にしてサービスを展開する意識が強すぎたのかな、という点は見て取れました。パイオニア製品を販売したうえでのサービスがメインで、サービスはあくまで製品をサポートするためのものでした。
しかし、それでは「モノ×コト」ではなく「モノ+コト」の域を出ないのです。そうではなく、サービス主体で考え、そのサービスがハードウェアに対して影響力を与えるようなビジネスモデルに変えていき、ハードとソフトの相互で力を持たないとモノ×コトにはなり得ません。入社後、最初に感じたのはその点でした。