自動車の内外装部品やセーフティ部品で世界的にもトップクラスのシェアを誇る豊田合成。これまでデジタルとの接点が多くはなかった同社が、2021年からDXに大きく舵を切り、デジタル人材の育成を着実に進めている。それを指揮するのは、データサイエンスのプロフェッショナルとして同社に招聘された東立(ひがし・りゅう)氏だ。典型的な「ものづくり企業」だった豊田合成で、どのようなグランドデザインを描きながらデジタル人材育成のプロジェクトを進めてきたのか。また、その過程で見えてきた成果や課題とは。同氏に話を聞いた。
競争優位を確保するため「スマート工場化」を掲げる
――東さんはコニカミノルタでのプリンタ複合機の不具合の予兆保全やサプライチェーンのデータ分析をはじめ、2008年頃からソフトウェア・AI開発やデータサイエンスの分野に携わられています。豊田合成にはどのようなきっかけで入社したのでしょうか。
東立氏(以下敬称略) 豊田合成では、2020年に就任した小山享社長(現・豊田合成ノースアメリカ取締役会長)が「DXを推進する」との意思を表明して、同年から設計・製造・物流の各領域でIT化を進めていました。1年ほど経過した2021年に、松本理事(当時)や財津IT本部長(当時)から「これから社内のDXに力を入れたい」とのお話をいただいたのがきっかけです。
私自身、コニカミノルタ時代にDXやデータサイエンティストの育成プロジェクトを主導していた経験があったので、その経験を新たな製造業のフィールドで生かしてみたいと思い、オファーを引き受けました。
――東さんから見た、豊田合成をとりまく経営環境や経営課題についてお聞かせください。
東 当社が取り扱う自動車部品の製品群も例外なく、今後のEV(電気自動車)や自動運転など自動車業界の技術革新の影響を受けると言われています。そうした中で、エアバッグやハンドルといった「セーフティシステム製品」は現在世界的にもトップクラスのシェアを誇っており、今後もモビリティの発展に対応して成長が期待されています。
一方で、製品によっては安価で提供する新興国のメーカーが台頭してきています。そういった状況下で、競争優位を確保するために少しでも生産性を高めなければいけない、というのが大きな課題としてあります。
生産性向上のポイントとなるのが「スマート工場」です。2030年を経営目標年度とした中期経営計画にも「生産性倍増を実現させるスマート工場の具現化」を掲げ、デジタルを活用した低投資自動化などに取り組む方針を打ち出しています。