自動車メーカー、SUBARU(スバル)が生んだ「アイサイト」。今や同社を代表する技術となったが、ヒットまでには約20年を要した。途中、大きな路線変更を迫られた時期もあったが、それでもあきらめなかったのは、開発に携わってきた同社 技術本部 技監の樋渡穣氏が「この技術は間違いない」と、自身の感覚を信じ続けたからだという。さらに同氏は、60歳の還暦を迎えてからも新システムの開発に取り組んでいる。アイサイト誕生の道のり、そして現在開発しているシステムについて、樋渡氏に聞いた。
人の目の構造に近い「ステレオカメラ」にこだわり続けた
――改めて、アイサイトとはどのようなシステムなのでしょうか。
樋渡穣氏(以下敬称略) ステレオカメラを核とした運転支援システムです。ステレオカメラとは、左右に2つのカメラがついており、前方の対象物を両カメラが認識した際に、 2つのカメラとその対象物を結んで作られる三角形から距離を測定する仕組みです。人の目に近い構造でなければ人を救えないという考えから、ステレオカメラにこだわってきました。
アイサイト搭載車は世界中の安全評価でトップ評価をいただいていますし、この技術を標準装備したスバルのインプレッサやレヴォーグは日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。アイサイトを発表したのは2008年ですが、それから現在までに、世界累計500万台以上に搭載(※2022年8月までのデータ)されています。
とはいえ、アイサイトが日の目を見るまでには長い時間がかかりました。そもそもスバルが車載用ステレオカメラの開発を始めたのは1989年のことです。それから10年かけて、アイサイトの前身となるADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)を開発し、1999年に世界初の実用化へと至りました。しかし、選んでいただけるお客さんがほとんどいなかったのです。
長くその状況が続き、一時はステレオカメラが外され、レーザーレーダーだけのADAを出した時期もあります。それでもステレオカメラを信じ、若い人もついてきてくれて、新たなステレオカメラの基本設計を考え続けました。予算もない中、鉛筆と消しゴムを持って考え続けたのです。