オムロンは2018年に、新規事業の創造を目的とするイノベーション推進本部「IXI(イクシィ)」を設立した。それから短期間で業務改善サービス「pengu(ペング)」と「自立支援(介護予防)ソリューション」という2つの新規事業を誕生させているが、それらはどのように進められたのか。新規事業創出の仕組みを、IXIの立ち上げに携わった石原英貴氏に聞いた。
社内にスタートアップを作るイノベーション推進本部
「制御機器」「ヘルスケア」「電子部品」「社会システム」の4領域で事業を展開するオムロンには現時点で約60の事業がある。とはいえ、世間によく知られている血圧計事業でも売上は1000億円に満たないため、新たな事業を次々に創出し成長させていくことが不可欠だった。
そこで、オムロンではそれまで行っていた4つの事業領域を成長させていくフォアキャストのプランニングから、近未来の姿を描き、そこに至る成長のプランニングを行うバックキャストへと手法を変更。この背景には、2010年代初頭からIoTやAIといった技術が台頭する中、そうした技術を活用し、社会課題を解決していこうというビジョンがあった。
2018年には、新たな事業を創出して非連続な成長をリードする組織「IXI」(イクシィ:Innovation eXploring Initiative)を設立。ミッションは「新規事業の創造」「組織・しくみの変革」「人財の育成」とした。
2022年には、全社的な長期ビジョン「Shaping the Future 2030」を掲げ、2030年までに「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」という3つの社会的課題の解決を目標とした。
これらのビジョンを実現させる役割を担っているのが、IXIである。2023年10月25日現在、IXIには80人(キャリア42人、プロパー38人)がメンバーとして参加している。
IXIでは事業化までに5つのフェーズを設けている。フェーズ0が「テーマ創出」で、フェーズ1が「ビジネスモデル仮説設計」、フェーズ2が「顧客価値検証」、フェーズ3が「事業化検証」、そしてフェーズ4で「事業ローンチ」となる。
フェーズ4に至り、ローンチした事業は「社内スタートアップユニット」と呼ばれる。生まれたての社内スタートアップは規模が小さいのでオムロンの60の事業ポートフォリオには入らないが、売上・利益を追求して立ち上がった立派な事業である。
「社内スタートアップユニットとなった事業は、本当に生まれたてのひよこのようなものなので、保護する必要があります。例えば3年間で黒字化すると見立てたら、その3年間は会社が資金を提供します。ただし、その資金が尽きた時に黒字化できていなければ、事業は終了します。スタートアップがベンチャーキャピタルからお金を集めて新規事業を立ち上げていくのと同じ規律を働かせたわけです」(石原氏)