あるメディアで「ダイキンは新卒100人に2年間“タダ飯”を食わせる」という記事が出たのは、2018年5月のこと。ダイキンは、前年12月にデジタル人材を育成する社内大学「ダイキン情報技術大学(以下、DICT)」を立ち上げた。DICTでは毎年約100名の社員が2年間、集中的にAIやIoTのスキルを学ぶ。その間、受講者は実務を行わないが、給料は発生する。同社の大胆な人材育成の戦略は当時驚きをもって伝えられた。
それから5年以上が経ち、いまや同社が進めるさまざまなDXに社内大学の“修了生”が関わっている。DICTを中心としたダイキン工業のDXの舞台裏に迫るこの特集。第1回となる本記事では、なぜ社内大学の構想が生まれたのか、そしてDICTが現在のダイキンにどんな効果をもたらしたのかについて探っていく。
各現場に修了生が送り込まれ「半ば必然的にDXが進む」
売上のおよそ9割を空調事業が占めるダイキン。同社はその“限られた領域”の中で、製品・サービス開発から業務プロセス変革に至るまで幅広くDXを進めている。
一例が、2021年6月に開始したクラウド型の空調コントロールサービス「DK-CONNECT」だ。多数の空調設備をクラウド上で一元管理するほか、照明などを含めた施設全体のエネルギーマネジメントも行う。ビルや病院など、大規模設備の管理を効率化し、同時に省エネを図ることができる。
これ以外のDX事例として、エアコンのサブスクリプション事業も進めている。東大発のスタートアップ「WASSHA(ワッシャ)」と連携し、同社のモバイルマネー技術をエアコンと組み合わせたという。アフリカのタンザニアでサービスを開始している。
「これらのサービスは、エアコンの概念から定義し直したものです。“機器”を売るハードウェアビジネスではなく、プラットフォームのような共通基盤を作り、その上にアプリを載せるソフトウェアビジネスです。IT業界では当たり前のことではありますが、エアコンの世界では大きな変化だったと思います」
こう話すのは、ダイキン工業 DX戦略推進担当 執行役員の植田博昭氏。上記のサービスは、エアコンのアーキテクチャから再考していったという。
従来とは異なるものを作り上げるために、企画開発プロセスの変革も並行して進められた。同社のDX戦略推進準備室室長を務める大藤圭一氏が説明する。