デンソー 電子システム技術部 UXイノベーション統括室 室長の崔晋海氏(撮影:堀江宏旭)

 世界トップ規模の自動車部品サプライヤーであるデンソーは、次世代のモビリティを視野に入れた顧客体験(UX)の開発に力を入れている。独自のUX評価アプリを用いる徹底した顧客体験のデータ化と、車単体を超えて社会システムともつながるUXの実現にかける思いを、UX部門のリーダーに聞いた。

TOPICS
これからのモビリティのUX開発を求めてデンソーへ
数多くの車載機器で蓄積してきたデータが資産
データとノウハウを社内に蓄積するべく調査も内製化
モビリティを究極のパーソナライゼーションへ

これからのモビリティのUX開発を求めてデンソーへ

――崔さんは、電機メーカーで、顧客体験(UX)の第一人者として活躍されてきました。自動車業界に移ったきっかけは何だったのでしょうか。

崔 晋海/デンソー 電子システム技術部 UXイノベーション統括室 室長

海外メーカーにて家電、IT、サービスのUX開発や全社UX経営に携わる。2014年、世界3大デザインアワードの1つ「Red Dot Design Award」UX部門グランプリなど、多くの賞を受賞。2018年デンソー入社。現在はモビリティエレクトロニクス事業グループで、顧客の体験を起点にした企画活動を推進し、自動車メーカーなどとUX共創に取り組む。
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座右の銘:人は失敗しても、その根本原因に立ち返って行動を改めることをしない。韓国には「牛を失って牛舎を直す」ということわざ(日本でいう「後悔先に立たず」)があるが、崔氏はこれを逆に捉え、「たとえ牛が逃げたとしても、牛舎を直さなければいけない(終わったことでも根本原因に立ち返り行動する)」と心がけている。
注目の人物:ドナルド・ノーマン氏(UXの概念を提唱した米国の認知科学者)
お薦めの書籍:『Human Factors in Engineering and Design』(Mark S. Sanders著)

崔晋海氏(以下敬称略) 私はB2CのエレクトロニクスメーカーでUXに20年以上携わってきました。ある程度やりきった思いもあり、これからはシステムと人との関わりを、より大きな視点から見た仕事をしたいと考えるようになりました。特に、モビリティのUXに興味があり、自動車業界に転職しました。

 UXは1つの車づくりで完結するものではなく、より大きな概念です。私は、モビリティのUXそのものの進化に興味がありました。そのため、車のデバイスを開発しているサプライヤーで働きたいと思うようになりました。デンソーはメガサプライヤーと呼ばれる企業であり、グローバルでの存在感も大きい。プラットフォーム発想のUX開発ができると考えて入社しました。

 現在は、クルマから社会までつながる電子システムをUXベースで企画、開発するリーダーを務めています。

――世界屈指の自動車部品メーカーであるデンソーが、ソフトウェア領域の色彩が濃いUXの基礎を研究開発することは、大きなチャレンジだと思います。その意義は何でしょうか。

 これからの車は、一度売って終わりの時代から、長期間ライフタイムで価値を持たなければいけないと言われています。車を買ってから子供が生まれるなど家族構成が変わることもあります。ライフスタイルの変化に合わせた体験を提供できるアプリや、サブスクリプションのサービスは、今後必要になると考えています。

 ただし、単に車にソフトウェアを載せるだけでは、達成できません。将来のモビリティは、車の中だけでなく、移動体全般、さらに社会システムまで含めた全体でシームレスな体験を提供することが必要です。