写真提供:共同通信社

 日本を代表する経営者であり、本田技研工業の創業者でもある本田宗一郎氏。その考え方は時代が変わってもなお、耳を傾ける価値がある。本連載では、今も多くの人に読みつがれる『本田宗一郎 夢を力に』(本田宗一郎著/日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。裸一貫から世界への扉を開いた名経営者の行動力と言葉に、改めて光を当てる。

 今回は本田宗一郎氏が行った社長交代のあいさつを紹介。創業者として、どのような思いで後継者に経営を託したのか。社員たちに贈った言葉とは?

※本記事の中には今日、差別的とされる語句や表現がありますが、作者が故人であり、作品の発表された時代的・社会的背景も考慮して、原文のまま掲載いたしました。

退陣のあいさつ

本田宗一郎 夢を力に』(日経BPマーケティング)

 創立25周年を機に、次の世代へバトンタッチをして、副社長と第一線を退こうと話し合ったのは、かなり前のことだった。4専務に私達2人の意向を伝えたのも、確か4月頃のことで、4専務も了承してくれて、あとのやり方を具体的に検討している段階にある。

 たまたま、私が中国にいっている間に、新聞などの想定記事から従業員の皆さんに伝える前に、ジャーナリズムの報道記事が先行してしまったようで、みんな突然に思ったかもしれない。

 しかし、ホンダの人達にとっては、昭和39年の役員室制度から始まって、3年前に4専務体制がしかれたこと、とくに最近の1年以上は、この会社が実質的には4専務を中心とする運営がされていたことから、この交代は時期の問題だけだと察せられていたと思う。

 ホンダは、夢と若さを持ち、理論と時間とアイデアを尊重する会社だ。 

 とくに若さとは

 困難に立ち向かう意欲

 枠にとらわれずに

 新しい価値を生む知恵

 であると思う。