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 今日の株式会社の原型とされる「英国東インド会社」が設立されて400年あまり。地球レベルでの気候変動や人権問題、続発する紛争など、世界が大きく揺れ動く現代において、株式会社は社会とどう向き合っていくべきなのか。本連載では『会社と株主の世界史 ビジネス判断力を磨く「超・会社法」講義』(中島茂著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「株式」を巡る歴史をひもときながら、これからの株式会社の在り方や課題を考える。

 今回は、株式会社変革の壁とも言える「総会限定主義」に注目。世論を背景にした株主の声を経営に生かすため、株主総会の場から変えていけることとは?

株式会社が変わるための多くの課題

会社と株主の世界史』(日経BP 日本経済新聞出版)

(1)総会限定主義

① 限定主義の「限界」

「これからの株式会社」を考えるとき、最も大きな障害は総会限定主義です(第7章)。株主総会が決議できる範囲は「定款に定められている事項」と「会社法に定められている事項」に限られているのです(295条2項)。

 以上みてきたように、いま株式会社は「人を大切にする社会」に向けた変革を求められています。実現するためには、世論、そして世論を背景にした株主の声が経営に活かされていくことが必要です。

 その際に立ちはだかるのが総会限定主義です。「女性管理職の比率を高める経営を行う」「パリ協定を尊重した経営を進める」「人権尊重の経営をする」「取締役の過半数を社外取締役とする」といった事項は、定款事項ではなく、また法定事項でもありません。すべて経営事項であり、株主総会では決議できない事柄です。決議できないということは、審議もできません。そこに限定主義の限界があります。

 いま、「ガバナンスの充実」「気候変動対策の実施」「人権の尊重」などについて株主提案が増えています。ほとんど定款変更の形で行われています。定款変更の形にしてしまうと「特別決議」となり、可決へのハードルはものすごく上がります。それでも、株主提案を行う理由は、総会の議題とすることで審議の対象となることを期待しているからです。株主は多様な事項について「経営陣との対話」を望んでいるのです。