(写真左)電通デジタル データ&エンゲージメント部門 部門長 越久村 克士氏
(写真右)電通総研 営業第二本部 エンタープライズ営業第2ユニット エンタープライズ営業4部 部長 石川 豊氏

 国内電通グループ9社のDX領域の“知”を結集した横断組織「DENTSU DX GROUND(DDXG)」が着実な成果を挙げている。各社宛てに寄せられた案件に応じて、最適なチームを有機的に組成し、個社では対応できないソリューション提案を可能にしている。セブン銀行のマーケティング変革の事例からDDXGの具体的な取り組みを紹介するとともに、dentsu JapanのDX支援における強み、差別化ポイントなどについて電通総研と電通デジタルの2人にJapan Innovation Review編集長 瀬木友和が聞いた。

DXの課題は新たなステージへ

――DX支援における幅広い知見と豊富な実績をお持ちのお二人から見て、企業のDXの進捗や取り組みの深度をどのように評価しますか。

石川豊氏(以下敬称略) 個別最適ではありますが、さまざまな企業の事業部門やIT部門でデジタル化が進んだことは疑いようのない事実だと思います。ただ、それによって何が起きているのかというと、複数の部門にデータが個別に存在していて、それぞれのデータ連携がなされていないため、ばらばらな状態にあるデータをいかに統合していくのかという課題に直面している企業が増えています。

 統合したデータを可視化して顧客をセグメントし、その中からターゲットをつくっていくことが、改めて求められていると思います。

越久村克士氏(以下敬称略) DXが一巡し、個別に効率化はできた。だけど、「こんなにお金をかけたのに、こんなことしかできないのか」という声はよく聞かれます。経営層が「DXだ!」と掛け声をかけて現場に降りてくると、担当者は自分の業務をどう変えるかに一生懸命になり、両者の間でギャップが生じるところに課題があります。

 もう一つ、AIの登場により、これまでに構築したシステムを改修し、DXの新たなアプローチが必要になってくるところに、どう対応していけばいいのか、といった声も最近はよく聞かれます。

――そうした企業のDX領域における課題を解決するために、グループ横断の専門組織「DENTSU DX GROUND(DDXG)」で活動されているかと思いますが、直近の成果や手応えはいかがですか。

石川 2024年度は、9社が集まり、各社の強みをしっかりと理解して、各社間のエンゲージメント向上(関係を深める)というのが目標でした。相互理解が進み、「こういう案件があるけれど、一緒にタッグを組めないか」といった個別の相談も増えて、グループ連携の効果は着実に生まれています。

 2025年度は案件ベースで動くだけでなく、一緒に新しい事業を創出していくようなことも計画しており、各社の強みやアセットを掛け合わせて、dentsu Japanとしての存在感を高めていきたいと考えています。

「DENTSU DX GROUND」を構成する9社(提供:dentsu Japan)
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セブン銀行の課題に、コンサルティングフェーズから対応

――DDXGの具体的な取り組み事例として、セブン銀行のマーケティングDXを電通総研と電通デジタルが支援されたそうですが、これまでの経緯や課題、プロジェクトの概要などについてお聞かせください。

石川 ご存じの通り、セブン銀行様はセブン‐イレブンなどに設置されたATMの受入手数料を収益源とする独自のビジネスモデルで成長を果たしたネット銀行です。

 直近では、預金、ローンサービス、デビットサービス、スマホアプリ(Myセブン銀行)など、銀行口座サービス事業を拡大。2020年頃より新規口座利用者へのマーケティング強化に取り組んできました。

 新規顧客に対して各種銀行サービスを案内する際に、従来はメールの一括配信を利用していました。しかし、顧客の多種多様なニーズに応えていくには、同じ内容のメールを一斉配信しても“刺さらない”どころか、むしろノイズになってしまう可能性もあります。

 顧客データを分析してセグメントを作り、ターゲットに対して適切な情報をお届けすることをDXで効率的に進めていくために、当時評価中だったクラウドソリューション「Salesforce Marketing Cloud」(以下SFMC)の本格活用を決定しました。

――電通総研と電通デジタルはそれぞれどのような役割を担ったのですか。

石川 電通総研はお客さまの解像度を上げ、最適な提案ができるように、ダイレクトバンキングサービスや勘定系システム、情報系システムなど複数のシステムとSFMCとの連携をご支援しました。

越久村 電通デジタルは、収集すべきデータやセグメンテーションなど、マーケティングの実践面をご支援しました。まずは両者がセブン銀行様の課題をしっかりお聞きして、SFMCの導入だけでなく、どう活用すればよいのかという使い方の部分までお手伝いさせていただきました。

 セブン銀行の担当者様には、「こちらの要望に誠実に向き合い、理想論を現実の施策にまで落とし込んでくれた」と過分なまでの評価もいただきました。

――プロジェクトの推進にあたって難しかった点や工夫した点は何ですか。

石川 越久村さんの補足になりますが、何の目的でSFMCを本格利用するのかというセブン銀行様の課題をしっかりと認識して、現状とのギャップを埋めていくためにその活用を検討し、本格利用前の事前検証も行うフェーズが重要だったと思います。

 電通総研では「顧客接点DX」というキーワードを掲げて、多様化する顧客接点、複雑化するデータをつなぐDXを目指しています。DDXGでグループ連携を図ることによって、上流から下流までエンド・トゥ・エンドでのDX支援が可能です。

越久村 仕組みを入れても、その先の施策がお客さまに届いて、アクションにつながるところまでやりきらないと意味がないですし、ROI(費用対効果)も出ません。マーケティングの観点ではそこまでを見据えて、お客さまに伴走することが重要で、今後自走化を目指すとしても、立ち上げのところをしっかりご支援できたことがよかったと思います。

――SFMCによる顧客接点DXでワン・トゥ・ワンのマーケティングが可能になりましたが、セブン銀行のビジネスは今後どのように変わりますか。

越久村 一番シンプルな効果は、クロスセル、アップセルがやりやすくなることです。顧客単価を引き上げ、ひいてはLTV(顧客生涯価値)を向上することが可能です。

――「顧客接点DX」はソリューションにもなっているそうですね。

石川 360度の顧客理解の下、最適な接点を設計し、よりよい顧客体験を提供するための戦略、仕組み、人材づくりをトータルで支援するソリューションで、金融業界にとどまらず、製造、小売りなどの幅広い業界に提供しています。

「顧客接点DXソリューション」の概要(提供:dentsu Japan)
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「統合力」「顧客視点」「実現力」があるから、価値向上に貢献できる

――DX支援におけるdenstu Japan、DDXGの強みや差別化ポイントとは何でしょうか。

石川 DXに限らず、AX(アドバタイジングトランスフォーメーション)、BX(ビジネストランスフォーメーション)、CX(カスタマー・エクスペリエンス・トランスフォーメーション)を合わせた4つの領域でお客さまの変革をご支援できることです。

 コンサルティングティング会社にAXは難しいでしょうし、SIerも、BXやCXはスコープ外ではないかと思います。4つ合わせて価値向上に貢献できるのは、やはりdentsu Japanならではだと思います。

 DDXGとしては、既にあるソリューションや各社のアセットを組み合わせて、新たなソリューションを提供できることが強みです。

 例えば、小売企業が自社データを利用した広告配信の「リテールメディア」が注目を集めています。企業さまが媒体社となり広告枠で収入を得る流れが生まれている中で、dentsu Japanは広告ビジネスをご支援できますし、DDXGはDXでリテールメディアを構築していきましょうというご提案もできます。

越久村 DX=業務効率化のイメージが強く、これまで企業のDX戦略は企業内視点で考えられることが多かったと思います。企業内視点、業務視点はもちろん大事ですが、これに加えて、顧客視点もDXには必要だと考えています。DXは顧客体験に大きく影響するからです。

 DXの仕組みをつくるときに、実際にそれを使うのは従業員の皆さんですから業務視点は欠かせません。ただ、業務に落とし込むところから入っていくと、どうしてもお客さまや業務の先にある目的が見えなくなりがちです。お客さまにファーストプライオリティーを置いた上で業務を組み立てることが重要で、その思想がdentsu Japan、DDXGには根づいていると思います。

――「なぜdentsu JapanにDX支援を頼まなければいけなのか」と問われることもある。DXプレジデントの妹尾真氏はこう話していましたが、お二人はどうお答えになりますか。

石川 電通総研という観点では金融、製造などの業界に強みを持ち、それぞれの業務を深く理解した上でさまざまなソリューション提案ができること。業界に特化したソリューションを既に持っていることが、選定いただく理由の一つになっているかと思います。

越久村 同じく、電通デジタルに置き換えて考えると、世の中にコンサルティングする人はたくさんいて、分厚い提案書が納品されたりするのですが、そこで止まってしまうケースも少なくありません。

 私たちはコンサルもやりますが、戦略の実現にこだわり、お客さまが自走できるまで伴走支援するのが大きな特徴であり、お客さまから継続してご依頼をいただくポイントになっていると思います。

――DDXGの今後の展開、お二人のチャレンジについて最後にお聞かせください。

石川 dentsu JapanはDXビジネスを通じた社会貢献を目指していますが、私個人としてはまずはお客さまに寄り添い、パートナーとなり、お客さまのビジネス課題を解決したり、企業変革に貢献していくことで、その先の社会変革、社会貢献につなげていければと考えています。

越久村 DDXGとしては、これまで9社で案件を持ち寄り、最適なチームを組成して、ソリューション提案するケースが多かったのですが、今後はオファリング(顧客ニーズに合わせてハード、ソフト、サービスを組み合わせ、パッケージ化して提供するビジネスモデル)を磨き上げていくこと。クライアント企業それぞれの課題に沿った最適な解決策を提案し、伴走支援することで、事業成長につなげていきたいです。

インタビューを終えて
Japan Innovation Review編集長 瀬木 友和

 Japan Innovation Reviewでは2023年7月、セブン銀行の松橋正明社長にインタビューを実施した。(cf.「コンビニATMはどこまで進化するのか、セブン銀行社長が明かす新サービスの肝」2023.7.20公開)

 松橋氏はインタビューの中で、「テックカンパニーへの変貌」という言葉で、第二の創業期と位置付けて取り組む同社の挑戦を表現した。テクノロジーを活用することで既存の金融サービスの枠を越え、「顧客の期待(お客さまの「あったらいいな」)」を超えた、「日常の未来(新しい商品やサービス)」を生みだし続けたい、と力強く語る松崎氏。

 そんなエンジニア出身の松崎社長が進めるセブン銀行の挑戦に伴走しているのがdentsu Japanだ。

 インタビューで取り上げたセブン銀行のマーケティングDXの取り組みは、国内電通グループの9社が持つDX領域のナレッジを結集した「DENTSU DX GROUND」の真価が発揮されたケースと言っていいだろう。

 今回のプロジェクトを因数分解するならば、「業種(銀行業)への知見」×「高度な技術力」×「顧客体験視点」×「マーケティングの実践力」となる。

「銀行業」という、ひときわ高いセキュリティが求められる「業種」において、その根幹となる勘定系システムやダイレクトバンキングサービス、情報系システムなどの複数のシステムとSalesforce Marketing Cloudを連携させるという、「高度な技術力」「銀行業への知見」は電通総研が長年にわたって蓄積してきたものである。

 一方、「顧客体験目線」のアプローチで、収集すべきデータの整備やセグメンテーションといった「マーケティングの実践」を支えるのは電通デジタルが得意とする領域だ。

 単にシステムを導入して終わりではなく、それが「銀行ビジネスに対してどのようなインパクトをもたらすのか」、言い換えるならば「顧客(今回でいえば、セブン銀行の利用者)に対していかに新しい価値を提供するのか」という視点で伴走するという姿勢こそが、dentsu Japanが「DENTSU DX GROUND」で目指す姿だとすれば、セブン銀行のマーケティングDXの事例は、まさにその面目躍如と言えるだろう。

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