セブン銀行代表取締役社長の松橋正明氏(撮影:宮崎訓幸)

 いまや生活インフラとして定着したコンビニATM(現金自動預払機)の中で、約2万7000台を擁し、設置台数首位を走るセブン銀行。同社は創業20年の節目だった2021年4月、【お客さまの「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生みだし続ける】というパーパスを策定した。そこにはどんな思いが込められ、今後パーパスを土台にどのような事業拡大を狙っていくのか、松橋正明社長に聞いた。

パーパスを意識づける「社内アワード」を開催

 セブン銀行のパーパスについて松橋氏は、「ATMの現金入出金プラットフォーム事業が成熟し、現在は当社の“第2創業期”と位置づけています。そこで20周年を機に我々の生き様を統一感をもって表現したいと考えました」と話し、策定に至るまでの過程をこう述懐する。

松橋 正明/セブン銀行代表取締役社長

1962年北海道釧路市出身。1983年釧路工業高等専門学校(機械工学科)卒業後、日本電気エンジニアリング(現NECプラットフォームズ)入社。図書館の蔵書検索システムの開発等に取り組む。1998年よりアイワイバンク銀行(現セブン銀行)のAMT開発に参画。2002年日本電気入社。2003年アイワイバンク銀行(現セブン銀行)入社(転籍)。2011年執行役員、2015年常務執行役員、2018年専務執行役員を経て、2022年6月20日より代表取締役社長をつとめる。2023年6月より一般社団法人 金融データ活用推進協会の顧問に着任。
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座右の銘:「The best way to predict the future is to create it.」(リンカーンの言葉/未来は自ら考え、創る、予測からは生まれない)、「独自性が強みを産む」、「常識を疑い、変えに行く」
尊敬する経営者:安斎隆(セブン銀行初代社長、現特別顧問)/経営視点とお客さま視点の両立、揺るがない信念
変革リーダーにお薦めの本:『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』(鈴木敏文著)/当社原点の考え方集。お客さまの立場で考える、同業他社ではなく異業種に目を向ける。

「パーパスを決める議論を重ねてきて良かったと思うのは、セブン銀行のフィロソフィーに関わることだけでなく、今後の事業ドメインをどう考えていくかも併せて議論できたことです。パーパスにはあえて銀行や金融といった言葉を入れず、コンビニATMを通じて広く社会課題を解決していきたい、そしてお客さまの期待値を常に上回りたいという思いを込めて、『あったらいいなを超えて』という言葉を入れました」

 松橋氏は昨年(2022年)6月に社長に就任しているが、パーパスを全社員に共有してもらうために、これまでどんな啓蒙活動をしてきたのだろうか。

「今の仕事がどうパーパスに結び付くのか、あるいは結び付いているのかについて、なるべく社員個々人の業務と関連づけ、各部や各チーム7、8人単位で延べ60回近く対話を重ねてきました。私自身、各現場で起きていることを再度確認、把握できましたし、対話集会は非常にいい機会になったと思います」(松橋氏)

 このほか、パーパスをより全社的に意識づけていく意味で効果があったのが、「パーパスアワード」の創設だったという。同アワードは今年3月に開催し、全部署および子会社4社からパーパスに合致した47件の事業案件を選出。十数組のプレゼンテーションを経て、最終的に全社員の投票で決する形で優勝チームを表彰した。

パーパス・アワード表彰式の模様(写真提供:セブン銀行)

 優勝したのはSNSを介して顧客の声に回答するアクティブサポートのチーム。そのほか、データを活用したデータサイエンス研修プログラムを開発したり、先送りしていた紙の契約書の電子化につなげた案件などが入賞したという。

「一見、生産性を上げるようなバックオフィス系の取り組みであっても、パーパスに資する要素が浮き彫りになり、全社レベルで可視化できました。もっともアワードの結果も大事ですが、その過程のほうがより重要。自分たちはパーパスにどう向き合っているのか、それを踏まえて今後どうしていくかという、社員同士のディスカッションが生まれるきっかけになったことが大きかったです」(松橋氏)

社員とのミーティング風景(写真提供:セブン銀行)