いまや生活インフラとして定着したコンビニATM(現金自動預払機)の中で、約2万7000台を擁し、設置台数首位を走るセブン銀行。同社は創業20年の節目だった2021年4月、【お客さまの「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生みだし続ける】というパーパスを策定した。そこにはどんな思いが込められ、今後パーパスを土台にどのような事業拡大を狙っていくのか、松橋正明社長に聞いた。
パーパスを意識づける「社内アワード」を開催
セブン銀行のパーパスについて松橋氏は、「ATMの現金入出金プラットフォーム事業が成熟し、現在は当社の“第2創業期”と位置づけています。そこで20周年を機に我々の生き様を統一感をもって表現したいと考えました」と話し、策定に至るまでの過程をこう述懐する。
「パーパスを決める議論を重ねてきて良かったと思うのは、セブン銀行のフィロソフィーに関わることだけでなく、今後の事業ドメインをどう考えていくかも併せて議論できたことです。パーパスにはあえて銀行や金融といった言葉を入れず、コンビニATMを通じて広く社会課題を解決していきたい、そしてお客さまの期待値を常に上回りたいという思いを込めて、『あったらいいなを超えて』という言葉を入れました」
松橋氏は昨年(2022年)6月に社長に就任しているが、パーパスを全社員に共有してもらうために、これまでどんな啓蒙活動をしてきたのだろうか。
「今の仕事がどうパーパスに結び付くのか、あるいは結び付いているのかについて、なるべく社員個々人の業務と関連づけ、各部や各チーム7、8人単位で延べ60回近く対話を重ねてきました。私自身、各現場で起きていることを再度確認、把握できましたし、対話集会は非常にいい機会になったと思います」(松橋氏)
このほか、パーパスをより全社的に意識づけていく意味で効果があったのが、「パーパスアワード」の創設だったという。同アワードは今年3月に開催し、全部署および子会社4社からパーパスに合致した47件の事業案件を選出。十数組のプレゼンテーションを経て、最終的に全社員の投票で決する形で優勝チームを表彰した。
優勝したのはSNSを介して顧客の声に回答するアクティブサポートのチーム。そのほか、データを活用したデータサイエンス研修プログラムを開発したり、先送りしていた紙の契約書の電子化につなげた案件などが入賞したという。
「一見、生産性を上げるようなバックオフィス系の取り組みであっても、パーパスに資する要素が浮き彫りになり、全社レベルで可視化できました。もっともアワードの結果も大事ですが、その過程のほうがより重要。自分たちはパーパスにどう向き合っているのか、それを踏まえて今後どうしていくかという、社員同士のディスカッションが生まれるきっかけになったことが大きかったです」(松橋氏)