ATMを介した「社会課題解決サービス」の構想とは
一方、主軸であるATM事業は、従来の現金預け払い機能の枠を超えたサービスを次々と展開してきた。スマホATMもその1つで、キャッシュカードを所持せずともスマホアプリで現金の入出金ができたり、PayPayをはじめとしたスマホ決済のための現金チャージ等の機能を持たせている。

さらに新型ATM(第4世代ATM)に搭載した顔認証機能や本人確認書類の読み取り機能を活用した「あらゆる手続き、認証の窓口」となる新しいサービスを掲げ、今年9月から続々とサービスインする見込みだという。
「これまで銀行での窓口手続きが多かった住所変更の届け出や口座開設、本人確認なども顔認証機能を使いながらATMで完結させていこうという取り組みです。大手金融機関が支店や対面窓口、ATM事業を縮小している中で、まず数行の地銀さんと組んで新サービスを展開していきます。スタートは銀行との取り組みですが、先々は保険やクレジットカード会社などへも提供していきます。
もうひとつ自治体向けサービスの拡充もあり、すでに渋谷区など一部の自治体とは各種給付金の受け取りがATMでできるようになっています。最終的には我々のATMがあるセブン-イレブンに行けば、銀行業務や自治体業務すべてがワンストップで完結できる世界を目指しており、そちらの開発にも入ろうとしている段階です」(松橋氏)

ATMを介した社会課題解決サービスの構想はまだまだ膨らむ。
たとえば選挙への活用、相続の際の凍結預金口座の再解除など、法改正が必要なものを含めATMでさらに便利に提供できないか、あるいは亡くなった本人にしかわからない、故人の膨大なIDやパスワードをどのように突きとめていくかといった課題対応など。
「そうした社会課題を解決する一つのチャネルとして、全国約2万7000台のセブン銀行ATMを使っていただきたいと考えています」(松橋氏)
セブン銀行では、社員の柔軟な発想をより醸成していく狙いもあり、今年度から業務の10%の時間は一人一人の社員が関心のあるテーマの研究に自由に取り組めるよう「EX10(エクステン)」と呼ぶ制度を導入している。
こう見てくると、現金自動預払機としてのATMの機能はワン・オブ・ゼムにしか過ぎず、広く社会課題を解決するソリューション端末にシフトしていることが窺える。2019年から順次導入してきた顔認証技術やAIなどの新技術を搭載した最新のATMは第4世代となり、2024年度末までには全ATMへの換装が終了する。そして、早くも次の第5世代ATMの研究も始まっているという。
「銀行免許をいただいていることもあって、将来もセブン銀行という社名は変わりませんが、企業としてはより“テックカンパニー”の色彩を強めていくことは間違いありません」
と力強く語る松橋氏。時代の変化とともにセブン銀行も進化していく中で、【お客さまの「あったらいいな」を超えて、日常の未来を生みだし続ける】という同社のパーパスは、今後も普遍性のある座標軸として根付いていくだろう。