三菱UFJ銀行 執行役員 総務部長の鯛洋太郎氏(撮影:榊水麗)

「金利のある世界」への回帰、コロナ禍を経た働き方の多様化──。金融機関の外部・内部環境が激変する中、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がオフィス改革に踏み出した。「快適性」「選択性」「可変性」という3つのコンセプトを掲げ、データとアジャイル開発の手法を用いて「進化し続けるオフィス」を目指す。その変革を主導する三菱UFJ銀行執行役員総務部長の鯛洋太郎氏に、MUFGが目指すオフィスの在り方と、総務部の今後の役割について話を聞いた。

外部・内部の環境変化から「オフィスの在り方」を再定義

──MUFGは大規模なオフィス改革に着手しました。きっかけや背景は何だったのでしょうか。

鯛洋太郎氏(以下敬称略) 大きな文脈としては「外部環境」と「内部環境」の2つの変化があります。

 外部環境は、お客さまとの接点の変化です。金融業界は低金利、マイナス金利の時代が長期化し、国内の金融ビジネスにおいて収益性の低い状況が続きました。その中で私たちは、経営効率化とデジタル化の進展に伴う顧客行動の変化への対応を踏まえた店舗戦略の見直しを進め、国内の支店数は515店舗(2017年度)から324店舗(2024年度)に減少しました。

 しかし、2024年3月に日本銀行がマイナス金利の解除を決定して以降、ようやく日本にも金利のある世界が戻ってきました。そこで、お客さまとの接点がこれまで以上に重要になってきたことが1つ目の背景です。

 内部環境の観点は、社員の行動変容と価値観の変化です。コロナ禍でのフルリモート勤務の経験を経て、今日では働く場所をいくつもの選択肢から選べる時代になりました。その中で「なぜわざわざオフィスに来るのか」という問いに答えられるよう、オフィスの価値を私たち自身が創っていかなければならないという課題意識がありました。

──確かにコロナ禍は、「オフィスに集う意味」を多くの企業が問い直す契機となりました。

鯛 リモートワークには利便性がある一方で、対面でなければ得られない価値もあります。コロナ禍を経て、そのことを私たちも再認識しました。

 特に、偶発的な会話から新しいアイデアが生まれる、有益な情報共有につながるといったことは、同じ空間を共にするからこそ生まれる価値です。こうしたコミュニケーションが生まれやすい空間とは何か。社員が「今日はオフィスに行こう」と思える環境とは何か。これを突き詰め、再定義する必要がありました。

 さらに、採用競争力の観点も重要です。社員に高いエンゲージメントを持って働いてもらうとともに、新たに有能な人材に来てもらえる環境を用意することは、われわれの事業がさらに発展するための源泉となります。

 そのためには、これまで各拠点で属人的に行われていたオフィスづくりを改め、私たち総務部がセンター・オブ・エクセレンスとしてさまざまな機能や知見を集約し、オフィスの在り方について能動的にコンサルテーションできるようにしなければならないという考えから、全社的なオフィス戦略を打ち出すに至りました。