「人に人徳があるように企業にも社徳がある」
証券や銀行、生損保のインターネット金融サービス事業を核に、新産業育成に向けた投資事業やバイオ事業など、幅広くビジネスを展開するSBIホールディングス。同社を1999年に興し、独自の金融生態系を築いてきたのが北尾吉孝会長兼社長(CEO)である。同氏は創業の際にまず、どんな時代が到来しようとも変えてはならないSBIの行動規範、クレドともいえる経営理念を定めている。
「創業時、どんな企業をつくるのか様々なことを考えるわけですが、その第一歩が経営理念の策定でした。英語でいえば『corporate mission』で、これはビジョンとは違います。ビジョンは経営環境が変わったり経営者が代わったりすればそれなりに変えてもいいものですが、コーポレートミッションはそう簡単に変わっては困る。そこで5項目からなる経営理念を掲げ、すべての役職員がその理念に従って行動してもらいたいという思いを込めました」(北尾氏)
5つの経営理念は、北尾氏が普段から説いている言葉を鑑みると、2つに大別されそうだ。1つが、「人に人徳があるように企業にも社徳がある」という考えで、それに沿った理念が「正しい倫理的価値を持つ」と「社会的責任を全うする」だ。
「あらゆる組織は大なり小なり経営トップ、すなわち指導者の倫理的価値観が息づいていて、それが経営成績や経営方針にすべて反映されるものだと思います。そこで、どんな倫理的価値観を持つべきかを考えた時、私はずっと中国古典を勉強してきたので、そこに関わりのある理念にしようと考えました。
儒学の中に非常に大事な考え方として『義利の弁』があります。社会正義に照らして本当に正しいからやるのか、あるいは利益があるからやるのか。それらが明確に区別されるべきで、その区別は“志”によって成されるのだろうと。つまり、義に根ざす志を持たなければならないのです。そういう意味で、倫理的価値観はあらゆるものの根底にあり、極めて大事なものだといえます。
『社会的責任を全うする』という意味は、企業は単独では生きられず、社会があってこそ生きられる。そして、さまざまなステークホルダーとうまく調和しながら発展していくことが大事だということです。ステークホルダーは社員や社員の家族、取引先だけでなく、社会そのものがステークホルダーだといえます。自分を取り巻くすべてのものに対して調和させ、いろいろなバランスをどう保っていくか。それが大きな社会的責任だと思います」(北尾氏)