
デロイト トーマツ グループでは「Well-being社会」の構築に貢献することを目指し、活動を進めている。人が資本のプロフェッショナルファームがなぜ、これに取り組むのか。そのきっかけと、この実現のための取り組みをCTO(Chief Talent Officer)の大久保理絵氏に聞いた。
思い描く未来へ歩みを進めるために「Well-being」を掲げた
――デロイト トーマツ グループが掲げている目指すべき社会の姿はどのようなものでしょうか。
大久保 理絵/デロイト トーマツ グループ Chief Talent Officerデロイト トーマツ グループ 執行役。長年にわたり一貫してオペレーション改革コンサルティングに従事。業務、組織、ITの総合的なオペレーティングモデルの設計を強みとし、ロボティックプロセスオートメーション、シェアードサービスセンター構築、アウトソーシングアドバイザリーを含む豊富なサービス提供を行っている。製造業を中心に、通信、IT、金融、物流、公共など幅広い業界での経験を持ち、特に米州、欧州、アジアなどの海外現地法人を含んだグローバルレベルの変革も数多く手掛けている。デロイト トーマツ コンサルティングのエシックスサブリーダー、DEIリーダーを歴任し、2021年にデロイト トーマツ グループのDEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)リーダー、2022年にChief Talent Officerに就任。Deloitte Asia Pacificとも連携しながらグループ全体のタレント施策とDEI推進を精力的にけん引している。
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座右の銘:「Where there is a will, there is a way」 “Will”(志)があれば、やり方は必ず見つかる。実現したい未来に向かう志があれば、道は必ず開ける。
大久保 私たちはAspirational Goalとも呼んでいますが、アスピレーションという言葉には「思い描く未来の姿」といった意味があります。当グループの思い描く理想像(ゴール)に向かって歩みを進めるために、「Well-being」を掲げました。
Well-beingは、「Personal Well-being」「Societal Well-being」「Planetary Well-being」という3層から成り、中心にある“Personal”は、平易な表現を使えば“いい人生を過ごす”ことを意味しています。
まず目指すべきは、一人一人の個人が良好な状態でいることとして真ん中に置き、その外側に個人の集合体である社会を良くする“Societal”があり、さらに地球規模まで視座を上げて当グループのできることを社会の一員として提供していこうと“Planetary”を一番外側に置いています。
――「Well-being 社会」の構築をAspirational Goalとして定められた経緯は。
大久保 2011年の東日本大震災で、私たちは社会との向き合い方を問われる経験を多くしました。そこから10年が経過したのを機に、2021年にわれわれが目指すべき未来を改めて考え直そうということで、社職員へのアンケート結果なども反映された「Well-being 社会」を打ち出すことを決めました。
――Well-being(幸福)社会の構築には、どのような活動領域がありますか。
大久保 「Personal Well-being」に関しては、デロイト トーマツの社職員が身体面、精神面、社会面において良好な状態で働ける環境を整えるために、例えば個々が3rd Placeを持つことを促進する取り組みなど、多様な施策を打ち出しています。
「Societal Well-being」では、教育、スキル開発、機会創出の3分野において、2030年までに全世界で累計1億人、日本では200万人へのポジティブなインパクトを目標とした「WorldClass」を強く推進し、「Planetary Well-being」では「WorldClimate」に代表される持続可能な環境構築への取り組みを行っています。
――具体的にはどのような施策を行っているのでしょうか。
大久保 例として、「WorldClass」の一つに「Women in Tech」があります。テクノロジーによって日本社会の明るい未来を描くための施策は多くありますが、現状ではその担い手に女性が少ないという課題があり、これを打開しようと立ち上がった有志のメンバーによる活動です。
テクノロジーの仕事は、女性ができないわけでも、向いていないわけでもないのに興味を持つ方が少ない。それは「テクノロジーは理系出身者のもの」など、過去からの印象や先入観、つまり社会的なバイアスに大きく影響されており、テクノロジーに対する興味の男女差は15歳で既に生じ始めているというデータもあります。
ところが、デロイト トーマツ グループは世間から必ずしも理系企業だと捉えられているわけではありませんが、テクノロジーに関わるさまざまな仕事をしています。もっと言えば、理系・文系という概念は学生時代のもので、社会に出てしまうとその切り分けはないですよね。“理系ではないから”という理由でテクノロジーへの興味が失われているという状況があるならば、実際にテクノロジーの仕事に携わっているわれわれがそれを変えていかなければいけないという思いから、意識やスキルの変革をお手伝いしています。
具体的には、先ほど申し上げた「テクノロジーの仕事に関する興味に男女差が生じる15歳」を一つの目安として、中学生まで対象を広げ、中高生・大学生を対象に講義やワークショップを行ったり、キャリア層向けの企画もしているところです。「Women in Tech」はスタートしてから1年半ほどですが、現在は全社から自主的に集まった50人以上の男女混成チームで運営しており、これまで約500人の学生さんにプログラムの提供を行いました。
――ここまで「Well-being 社会の実現」についてお話しいただきました。デロイト トーマツ グループにはパーパスやShared Valuesもありますが、それらはどのように関連しているのですか。
大久保 デロイト トーマツ グループ全体のパーパス(存在意義)はグローバルで共通に設定している「Deloitte makes an impact that matters」です。それをFairness to society、Innovation for clients、Talent of peopleという3つの類型で示す経営理念が、Shared Values(共通の価値観)と呼ばれる5つの項目へとつないでいます。
Shared Valuesは「Lead the way」「Serve with integrity」「Take care of each other」「Foster inclusion」「Collaborate for measurable impact」の5つを、多様性を求めてもバラバラにならない共通の価値観として定めています。
内発的な成長意欲を追求するやり方に舵を切った

――これまでお話しいただいた理念やAspirational Goalに、デロイト トーマツ グループの強みをどう生かしていこうとお考えですか。
大久保 デロイト トーマツ グループの強みとしてまず挙げられるのは、グループ全体として社会に対する意識が非常に高いということです。先ほどお話しした「Women in Tech」の取り組みなども、ボランティアとして発生した活動に会社が投資枠を付けて後押ししているのが特徴で、他社にはあまりないことだと思います。
自社のビジネス成長だけを求めるのではなく、良い社会を作ることができれば、われわれのビジネスもその中で成長しているはずだという考えがベースにあります。監査や税務をはじめとした経済発展の健全性を守るビジネスを擁する企業であることが、社会に対する意識の高さを醸成する一つの要素になっているのかもしれません。
もう一つの強みは、人をとても大事にする会社であるということです。これまでの人材育成というと、まずスタッフとして入社、その後一つずつランクが上がり、ランクごとに求められる人物像への到達を目指すという形でしたが、それを転換し自分の内側から湧き出る成長意欲に目を向け、自分が何に興味があり、何をやりたいと思っているのかを理解し、追求していく中で才能を開花させる、というやり方に舵を切りました。
これは私がCTOに着任して最初に作成したバリューステートメントに宣言として書かれており、現在それを支える制度やスキルの構築を行っているところです。
従来の、会社がなるべき人物像を提示する形では、人はその人物像と自分を照らし合わせ、自分に足りないものにフォーカスして、それを埋めることに必死になります。そのやり方では成長に限界がありますし、多様な人たちが意見を出し合い、そこで生まれたインスピレーションの種を育む文化はなかなか作りにくい。
「自分ではない誰かになる」のではなく、「あなたらしくある」ことが大事である――つまり、自分の内側から湧き出す成長意欲に突き動かされて腕を磨く状態、それが生き生きとしている状態なのだと、メッセージを伝えています。
――それを理想としつつも、自分のやりたいこと以外の仕事を会社から求められるケースも、きっとありますよね。
大久保 “このビジネス領域を伸ばしたいから、それができるスキルを養成・配置すべき。そうしないと仕事は成立しない”と思いがちですが、スキルは「仕事」より小さい単位で獲得できるもので、仕事の中身を分解すると必ず個々人がなりたいもの、できたいことに資するスキルにつながります。
また、個々の強みを生かすという点についても、われわれは1人のスーパースターによってのみサービス提供を行っているのではなく、複数の“タレント(才能)”を持つプロフェッショナルが集まり、一つの仕事を成し遂げるというやり方をとっています。それができるのは、多様な人材を多く抱えるデロイト トーマツ グループの総合力があってこそだと自負しています。
――自分のやりたい領域で腕を磨くことが、結果的に社会の役に立ち、デロイト トーマツ グループのビジネスの成長へもつながると。
大久保 そうです。評価面談やゴール設定などで自分の思い描く未来をイメージしてもらうと、「お客さんとカッコよく交渉して、先進的な案件を取ってきている」という方もいれば、「品質の高いシステム開発をしています」という方もいる。
では、それを成し得るために必要なスキルセットは何だろうかとブレークダウンしていくと、だいたいは自分の欲しいスキルと同じ場所に収れんされる。逆に言うと、仕事を通じて獲得できるスキルが自分の夢の実現とひも付けられるかどうか、ということです。
――とはいえ、これまでのやり方を思いきって方向転換するのは、なかなか勇気がいることですよね。
大久保 自分の内面に目を向け、そこから年間のアクションプランを作るということはCTOに就く前から何年も実践しており、その経験から、各自が自由に想起した未来を中長期目標として設定し、その1年目として年間計画を立ててもビジネスが崩壊することはないと分かっていたので、そこまで勇気は必要としませんでした。
企業として、社会との境界線をもっと低く、もっと薄くしていきたい
――デロイト トーマツ グループの理念やAspirational Goalを実現するために取り組んでいる変革を教えていただけますか。
大久保 CTOの範囲には人材育成や採用、モビリティとともにカルチャーチェンジという領域が含まれ、その中では「人の経験」を変えていく取り組みも行われています。というのも、文化は日常的な人の経験の積み上げで築かれ、経験を変えないとカルチャーは変わらないからです。経験というのは、“見る”“聞く”ということも含みます。
例えば、われわれは目指す未来を達成するのに不可欠な多様性の確保を戦略と位置付けており、この領域で行われている施策の一つには、パネルプロミスと呼ばれる登壇者の多様性をルール化したものがあります。これは、全社会議など多くの人の目に触れる会議やセミナーにおいて登壇メンバーのジェンダーバランスを確保するもので、比率を、男女各40%、残りの20%を多様性調整枠と定めています。内部の会議だけに留まらず、外部主催のイベントにおいても協力を要請しています。
また、前述のShared Valuesを体現している人のレコグニション制度も変革の一つとして挙げられます。自薦・他薦問わず、Shared Valuesを表わす行動のエピソードを社内で募り、年に1回表彰するというもので、社職員のモチベーション向上、ひいては新たな企業文化の醸成に役立っていると思います。
――そうした変革などを経て、理念やAspirational Goalを実現できた際、デロイト トーマツ グループはどのような姿になっていると想像しますか。
大久保 一企業として、デロイト トーマツ グループと社会とのバウンダリー(境界線)をなくしていきたいですね。教育機関や企業、社会の間には、なんとなくの順番があるじゃないですか。学校で学んで、あるいはスクールで資格を取得してから就活を経て会社に就職する、というような。その順番もシーケンシャルである必要はないし、働きながら学んだり資格を取るという形がもっと当たり前になってもいいですよね。
私は、デロイト トーマツで働いている、もしくは働いていた人たちの間にもっと活発な交流があっていいと思っています。分かりやすい例としては、例えば定年を“その年齢に達すると、この会社の人ではなくなる年齢”ではなく、“その年齢に達したら、デロイト トーマツ グループと自分のその後の関係性を改めて見直す年齢 ”といった、会社と話し合うタイミングのような形に変えるとか。
Shared Valuesの価値観を共有しながら、社会との壁も低くなり、さまざまなところにデロイト トーマツが溶け込んでいるような状態になったらいいなと思います。









