内発的な成長意欲を追求するやり方に舵を切った
――これまでお話しいただいた理念やAspirational Goalに、デロイト トーマツ グループの強みをどう生かしていこうとお考えですか。
大久保 デロイト トーマツ グループの強みとしてまず挙げられるのは、グループ全体として社会に対する意識が非常に高いということです。先ほどお話しした「Women in Tech」の取り組みなども、ボランティアとして発生した活動に会社が投資枠を付けて後押ししているのが特徴で、他社にはあまりないことだと思います。
自社のビジネス成長だけを求めるのではなく、良い社会を作ることができれば、われわれのビジネスもその中で成長しているはずだという考えがベースにあります。監査や税務をはじめとした経済発展の健全性を守るビジネスを擁する企業であることが、社会に対する意識の高さを醸成する一つの要素になっているのかもしれません。
もう一つの強みは、人をとても大事にする会社であるということです。これまでの人材育成というと、まずスタッフとして入社、その後一つずつランクが上がり、ランクごとに求められる人物像への到達を目指すという形でしたが、それを転換し自分の内側から湧き出る成長意欲に目を向け、自分が何に興味があり、何をやりたいと思っているのかを理解し、追求していく中で才能を開花させる、というやり方に舵を切りました。
これは私がCTOに着任して最初に作成したバリューステートメントに宣言として書かれており、現在それを支える制度やスキルの構築を行っているところです。
従来の、会社がなるべき人物像を提示する形では、人はその人物像と自分を照らし合わせ、自分に足りないものにフォーカスして、それを埋めることに必死になります。そのやり方では成長に限界がありますし、多様な人たちが意見を出し合い、そこで生まれたインスピレーションの種を育む文化はなかなか作りにくい。
「自分ではない誰かになる」のではなく、「あなたらしくある」ことが大事である――つまり、自分の内側から湧き出す成長意欲に突き動かされて腕を磨く状態、それが生き生きとしている状態なのだと、メッセージを伝えています。
――それを理想としつつも、自分のやりたいこと以外の仕事を会社から求められるケースも、きっとありますよね。
大久保 “このビジネス領域を伸ばしたいから、それができるスキルを養成・配置すべき。そうしないと仕事は成立しない”と思いがちですが、スキルは「仕事」より小さい単位で獲得できるもので、仕事の中身を分解すると必ず個々人がなりたいもの、できたいことに資するスキルにつながります。
また、個々の強みを生かすという点についても、われわれは1人のスーパースターによってのみサービス提供を行っているのではなく、複数の“タレント(才能)”を持つプロフェッショナルが集まり、一つの仕事を成し遂げるというやり方をとっています。それができるのは、多様な人材を多く抱えるデロイト トーマツ グループの総合力があってこそだと自負しています。
――自分のやりたい領域で腕を磨くことが、結果的に社会の役に立ち、デロイト トーマツ グループのビジネスの成長へもつながると。
大久保 そうです。評価面談やゴール設定などで自分の思い描く未来をイメージしてもらうと、「お客さんとカッコよく交渉して、先進的な案件を取ってきている」という方もいれば、「品質の高いシステム開発をしています」という方もいる。
では、それを成し得るために必要なスキルセットは何だろうかとブレークダウンしていくと、だいたいは自分の欲しいスキルと同じ場所に収れんされる。逆に言うと、仕事を通じて獲得できるスキルが自分の夢の実現とひも付けられるかどうか、ということです。
――とはいえ、これまでのやり方を思いきって方向転換するのは、なかなか勇気がいることですよね。
大久保 自分の内面に目を向け、そこから年間のアクションプランを作るということはCTOに就く前から何年も実践しており、その経験から、各自が自由に想起した未来を中長期目標として設定し、その1年目として年間計画を立ててもビジネスが崩壊することはないと分かっていたので、そこまで勇気は必要としませんでした。